晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>A6

うんまあ、普通そうするよな。
だから成田も、いきなり口つけて、グビグビいったわけ。
あったかーいスープみたいな液体が、口の中に流れ込んでくる。
やっぱポタージュだったんだよな。
それも、すっごくうまいヤツ。

成田は嬉しくなって、一気にそれを飲んじゃったんだ。
それから缶を投げ捨てて、家に帰ったんだって。
次の日学校に行ってから、みんなに自慢した。
どこがオバケ販売機だ、俺は平気だぜ……なんてな。

ホントに、成田がいつもと変わらなかったから、みんなすっかり信じた。
ところがさ、全然大丈夫じゃなかったんだよ。
三日くらいして、成田、急に倒れちゃってさ。
腹と頭と、いろんなとこが痛くて、もう立ってらんないくらいだったんだ。

それで病院に運び込まれたんだけど、医者とかがビックリしちゃってさ。
レントゲン撮ったら、内臓が奇妙な動きしてるっていうんだもん。
手術して調べたら、内臓の中に、黒い小さい虫がいっぱい詰まってたんだって。

ゴキブリの小さいようなヤツがさ。
メスで切り開くと同時に、そいつらがウワアッと出てきてさ。
看護婦なんか、気絶しちゃったんだってよ。
結局、それが原因で、成田死んじゃったんだ。
みんなは、オバケ販売機のたたりだって騒いだって。

でも、俺は違うと思うんだ。
缶ポタージュの中に、虫の卵が入ってたんじゃないかなあ。
ゴキブリって、すごい生命力だっつーから、熱いポタージュに入ってても死ななかったんじゃない。
それでも、まあ……やな話だけどさ。

そういえば、騒ぎになったんで、オバケ販売機のことを大人が調べたんだって。
ところが、どのメーカーの自動販売機で、誰の物なのか、全然わかんなかったんだってさ。
やっぱ、オバケ販売機だよな。
今でも、同じ場所にあるんだけどさ……。

これで俺の話は終わりだよ。
次の人どーぞ。


       (六話目に続く)