晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>B6

へえーえ、お上品ぶっちゃって。
でも、成田もそうすればよかったんだよな。
ヤツはいきなり口つけて、グビグビいこうとしたわけ。
そしたら、ズルズルッて音がして、妙な物が口の中に流れ込んできたんだよ。

もぞもぞ動いて、何だか生臭いようなにおいもする。
「うげえっ!」
ヤツは悲鳴をあげて、吐き出しちゃったんだって。
ビシャビシャと、地面にぶちまけた、それは……生きたミミズだった。
それも細い、ほら、糸ミミズってヤツ。

ウネウネのたくってるのを見て、成田はすっかり気持ち悪くなってさ。
そのまま、ゲエゲエやっちゃったって。
無理ないよな。
それっきり、二度とオバケ販売機には近づかなかったらしいよ。

そんな話聞いたら、誰だってあんなとこで買いたくないじゃん。
少しだけなら、興味あるけどさあ。
それにしても、なんで生きてる糸ミミズなんて、缶に入ってたんだろう。

フタも閉まってたし、空気がなければ、ミミズだって死んじゃうんじゃないのかなあ。
缶の補充してるとこだって、見たことないしさ。
よく、わかんないけど……。
とにかく、これがオバケ販売機の話。
そんじゃあ、次の人どーぞ。


       (六話目に続く)