晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>G9

チェッ、葉子ネエってホント、どんくさいよなあ。
なんていうか、吸い込む空気が、ざらざらしてるみたいなさあ……。
とにかく、気持ちが悪かったんだよ。
で、成田はハッとした。
自分の母親は、どうしたろうってさ。

それで、母親が倒れてるはずの、自分の部屋の前に行ったんだって。
ところがさ、いなかったんだよ。
廊下には白い粉が、うっすら積もってるだけでさ。
成田は、バリバリ体をかきながら、その辺を見回した。

ポロポロと、白い粉みたいなのが、床に落ちる。
その頃には、もう成田にもわかってた。
この白い粉は、体に生えてるきのこの胞子なんだ。
缶に詰まってた胞子を吸い込んだから、きのこが生えてきちゃったんだってさ。

……そのとき、成田の頭にパラパラッと何かが降ってきた。
軽くて、かすかに髪の毛を揺らすだけの……これは粉?
まさか!?
見上げた成田が見たのは……。
天井に両手両足でへばりついてる、母親の変わり果てた姿だったんだ。

頬の皮膚が破れて、白いきのこがのぞいてる。
黄色っぽい白目をむいて、成田をにらんでた。
「ウウウ……」
うなった口の中にも、白いきのこが見えた。
成田が逃げようとした瞬間、母親は飛び降りて、ヤツをつき倒したんだ。

「わーーーーっ!」
床に倒れたショックで、グズグズになってた皮膚が破れた。
ブワッと、細かい胞子が舞い上がって、上も下もわからなくなっちゃったんだ。
息しようとすると、パウダーみたいなのが、のどに引っかかる。

むせると、今度は鼻から入ってくるんだよ。
息ができない…………苦しい!
成田は床に押さえつけられたまま、気を失っちゃったんだって。
夜になって、成田の父親が帰ってきた。

それで、ヤツの部屋の前に生えてる、たくさんの白いきのこを見たんだ。
もちろん、それがなんなのか、わかるわけないけどさ。
それっきり、成田も母親も、いなくなっちゃったんだよ。
きのこになっちゃったのかもしんないよな。

とにかく、その話聞いてから、俺たちはオバケ販売機になんて近寄んなくなった。
きのこになんて、なりたくないもんな。
…………これがオバケ販売機の話。
葉子ネエ、信じないなら、それでもいいぜ。

俺の友達がいってたけど、こないだ親戚の家に行ったら、その近くでオバケ販売機そっくりの自動販売機を見たんだって。
怖いから確かめなかったって、いってたけど……。
オバケ販売機は、仲間を増やしてるのかもしれないよな。
いつか、葉子ネエの町にも現れるかも。

そのときは、絶対試してくれよな。
まあ、それでどうなっても、俺は責任持てないけどさ。
そんじゃあ、次の人どーぞ。


       (六話目に続く)