晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>L5

やっぱな。
成田も、ガッカリしたんだって。

それで金がもったいないから、ジュース飲もうとしたんだってさ。
プルトップを引っ張って、缶を開けた瞬間、ゴポッと変な音がした。
半分開いた飲み口から、まるでわき上がるみたいに、ドポドポ真っ赤な液体が出てきたんだ!

熱くて、なんか金臭くて……血そっくりの液体が。
「ぎゃーっ!!」
成田は叫んで、缶を投げ出した。

それがカラカラと転がった先に、誰かが立ってたんだ。
それまで自分一人だと思ってた成田は、ビックリして見たんだよ。
若い女の人で、カーディガンを着てた。
ほんの近くにいるのに、顔の辺りが暗くて、よく見えないんだって。

なんかヤバイ、と思った瞬間、女の人のシャツの胸のとこにジワッと赤い染みが広がったんだ。
血だ!!
成田は、そう直感で思ったんだって。
染みはどんどん広がって、カーディガンや長いスカートまで汚れてく。

ポタポタ、ポタポタ、地面にも落ちてるのに、落ちた瞬間パッと消えてなくなるんだよ。
普通なら、血だまりができるくらいの量が垂れてんのに、だぜ?
間違いなく、幽霊だよな。
ガタガタ震えてる成田の目の前で、女の幽霊は、黙ったまま血を流し続けてた。

そして、まだ血が止まらないうちに、スウッと動き出した。
それから消えちゃったんだって。
まるで、オバケ販売機の中に入ってったように見えたらしいよ。
成田は腰を抜かして、ヘロヘロになってるとこを、同級生に見つけられたんだってさ。

ヤツがあんまりうるさいもんで、大人たちがオバケ販売機をどかしたんだ。
そうしたら、ちょうど真下の地面が、くぼんでてさ。
そこ調べたら、白骨死体が出てきたんだってよ。
ボロボロのカーディガンと、長いスカートはいた女だったって。

しばらくして、犯人の男も見つかったんだよ。
なんか、白骨になった女とケンカして、つい刺し殺しちゃったんだって。
オバケ販売機に起きた、いろんな不思議って、その女がやってたのかなあ。
葉子ネエ、どう思う?

……とにかく、俺の話は、これで終わりだよ。
残ってるのは誰だっけ。


       (六話目に続く)