晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>M5

なんだよ、ノリが悪すぎるぞ、葉子ネエ。
成田はガッカリしたんだよ。

それで金がもったいないから、ジュース飲もうとしたんだってさ。
プルトップを引っ張って、缶を開けた瞬間、ゴポッと変な音がした。
半分開いた飲み口から、まるでわき上がるみたいに、ドポドポ真っ赤な液体が出てきたんだ!

熱くて、なんか金臭くて……血そっくりの液体が。
「ぎゃーっ!!」
成田は叫んで、缶を投げ出した。

そして、しりもちをついたんだ。
ヨロヨロッと、オバケ販売機に寄り掛かるみたいにしてさ。
そしたら、地面についた手が、急に動かなくなった。
見下ろしたら、販売機の下から手が出て、自分の腕をつかんでるんだって。

指には泥がこびりついて、爪なんかはがれちゃってた。
まるで、素手で土を掘り返そうとでもしたみたいに。

成田は悲鳴をあげて、逃げ出そうとした。
でも相手の力が強くて、とてもじゃないけど振りほどけない。
それどころか、ものすごい力で、オバケ販売機の下に引きずり込まれちゃったんだってさ。

…………それっきり、成田は行方不明になったんだ。
俺の友達は、それを夢で見たんだって。
でも、大人は信じてくれっこないって、いってたよ。
だから、俺たちにしか話さないんだけどさあ。
この話聞いた後、そいつと同じ夢見るヤツが何人もいたんだ。

俺は見なかったけど……なんか、霊感があるヤツは見ちゃうんじゃないかって、友達がいってたっけ。
だから、葉子ネエも気をつけな。
もしかして、葉子ネエに霊感があったら、今夜夢見ちゃうかもしんないからさ。

へへへ……見たら、教えてよね。
俺の話は、これで終わりだよ。
残ってるのは誰だっけ。


       (六話目に続く)