晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>N5

なんだよ、ノリが悪すぎるぞ、葉子ネエ。
成田はガッカリしたんだよ。

それで金がもったいないから、ジュース飲もうとしたんだってさ。
プルトップを引っ張って、缶を開けた瞬間、ゴポッと変な音がした。
半分開いた飲み口から、まるでわき上がるみたいに、ドポドポ真っ赤な液体が出てきたんだ!

熱くて、なんか金臭くて……血そっくりの液体が。
「ぎゃーっ!!」
成田は叫んで、缶を投げ出した。

そして、しりもちをついたんだ。
ヨロヨロッと、オバケ販売機に寄り掛かるみたいにしてさ。
そしたら、地面についた手が、急に動かなくなった。
見下ろしたら、販売機の下から手が出て、自分の腕をつかんでるんだって。

指には泥がこびりついて、爪なんかはがれちゃってた。
まるで、素手で土を掘り返そうとでもしたみたいに。

成田は悲鳴をあげて、逃げ出そうとした。
でも相手の力が強くて、とてもじゃないけど振りほどけない。
それどころか、ものすごい力で、オバケ販売機の下に引きずり込まれちゃったんだってさ。

次の日、オバケ販売機の下からのぞいてる服の切れっぱしが見つかって、大騒ぎになったよ。
販売機をどかしてみたら、ちょうど真下の地面から、はみ出してたんだって。
そこ調べたら、二体の死体が出てきたんだってよ。
一体はもちろん、成田だった。

そして、その成田を抱きしめるようにして、もう一体、白骨死体があったんだ。
ボロボロのカーディガンと、長いスカートはいた女だったらしいよ。
なんで、そんなとこに埋まってたのかは、わかんないけど。

オバケ販売機に起きた、いろんな不思議って、その女がやってたのかなあ。
一人で寂しくて、成田を引き込んだのかもな。
葉子ネエ、どう思う?
……とにかく、俺の話は、これで終わりだよ。
残ってるのは誰だっけ。


       (六話目に続く)