晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>Y7

へえ、そう思うんだ。
実は…………そうなんだ。
その女子の名前は、葉子だったんだよ。

で、その葉子の顔見て、成田は気が抜けちゃったんだって。
「何だ、おまえかよ……」
いいかけたのどが、バッと切り裂かれた。
ブワアッと飛び散る血しぶきの向こうに、ニヤニヤ笑う葉子の姿があったんだ。

焼けるような痛みに、成田は何が起きたのか、わからなかったって。
ただ、熱い血がどくどく流れて、体から力が抜けてくんだ。
赤く染まったカッターナイフを手に、葉子は笑い続けてる。

「死んじゃえ……死んじゃえ……」
そういって、嬉しそうに成田を見てるんだって。
それで、血を出しきっちゃったヤツが動かなくなると、そこから立ち去ってったんだ。
次の日になって、成田の死体が見つかったんだけど……。

葉子って同級生は、全然覚えてなかったんだって。
これがドクロの呪いってことかなあ。
第一、ホントに同級生だったかも、わかんないしな。
葉子の姿した、別のヤツだったかもしんないし。
でも、そんなの死んだ成田にはわかんないじゃん。

それから、この話をするときに、葉子って名前のヤツがいると、そいつのとこに化けて出るんだって。
葉子ネエも、気をつけた方が……。
意地悪くニヤニヤしていた良夫の顔が、急にこわばった。

「そんな……マジ……?」
馬鹿みたいな顔で、ポカンと口を開けてる。
私の後ろなんて見て、そんなとこに何があるって……。
振り向くと、首から血を流した、見知らぬ男の子が立っていた。
良夫と同じ年くらいかしら。

紙のような顔色をして、恨めしそうに私を見てる。
紫色のくちびるが、震えるように動いた。
「葉子……どうしてなんだよ……」
男の子は、足も動かさないで、スウッと滑るように近づいてくる。

「どうして……俺を殺したんだよ、葉子……」
この子、成田君なの?
葉子って名前の子に、殺されて……幽霊になって、私を!?
「ち、違うわ! 私は、あなたを殺した葉子じゃない!」
私の言葉が通じないように、成田君の幽霊は近づいてくる。

伸びてきた冷たい手が、私の首を締め上げた!
あわてて引き離そうとしても、腕も体も、空気のようにすり抜けてつかめない。
なのに首だけは、実体の手のような力で締めつけられてる。
苦しくて…………息ができない。
もう……。

頭の中が、真っ白になっていく。
こんなことで死んじゃうなんて……。


すべては闇の中に…
              終