晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>AA3

そうだよ。
成田は、そのボタンを押したんだ。
大きな音がして、取り出し口に何かが落ちてきた。
成田はかがみ込んで、手を突っ込んだんだよ。
そしたら突然、ものすごい痛みが走ってさ。

「うわあーーーーっ!」
……って叫んで、ひっくり返っちゃったんだ。
その手の指に食いついてたのは、十五センチくらいの大きさの生首だった!
人間の男そっくりで、ちっこい目玉を光らせてるんだ。
憎くてたまらないって顔して、力いっぱい、かみついてる。

成田は泣き出して、手を振り回したんだ。
痛いというより、怖くてさ。
思いっきり振った腕が、ガンッとオバケ販売機のボディにぶつかった。
その途端だった。
突然、動き出したオバケ販売機が、次々と生首を吐き出したんだよ!

転がり出た生首は、成田にかじりつくんだ。
小さな歯のくせに、ものすごい力だったって。
痛みで、成田は思わず悲鳴をあげた。
「やめてくれえっ」
その大きく開いた口元にも、生首は飛びついたよ。
それで、舌にかみついた。

あわてて引き離そうとするより、一瞬早く。
ブチッと大きな音がして、成田の舌は食いちぎられたんだ。
……夜になって、捜しに出た家族の人が、成田の死体を見つけたんだって。
ちぎれた舌は、側に落ちてたらしいよ。

だけど、生首は一つも見当たらなかったんだって。
また、オバケ販売機に戻っちゃったんだって。
だから俺たち、絶対あそこには近づかないもん。
学校行くときも、わざと顔背けてんだぜ。

口から血を流した、小学生くらいの男の幽霊を見たってヤツもいるしさ。
取り出し口の中から、光ってる目が見えたってヤツもいるんだ。
そんなとこ、怖いじゃん…………なあ?
俺の話は、これで終わりだよ。
次の人どーぞ。


       (六話目に続く)