晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>A1

最後は俺か。
じゃ、取って置きの話をしなくちゃな。
三年ぐらい前かな。
あれ、電話だ。
ちょっと待ってくれないか。

『もしもし、真田です。ああ、おまえか。どうしたんだ。えっ、ロケ現場でスタッフが行方不明?
………うん、………うん、わかった。なんかわかったらもう一度、連絡くれ、場合によっては、直ぐにそっちに向かうから。………うん。じゃあ』
ごめん、ちょっと仕事でトラブルがあったみたいなんだ。

プロデューサーっていう仕事も、楽じゃないよ。
あっ、話を続けるよ。
そう…、あれは三年前のことなんだけどさ。
俺がプロデュースしたドラマのロケのときにこんなことが起きたんだ。

虎は死んで皮を残す、人は死んで遺産が残るか、この家もそうだよな………。
物に死者の何らかの思いが残るってよくあるだろ。
でも、何の形もない、シナリオにこだわった人もいたんだよ………。
尾岳冬良という、文学の大家が死んだのを覚えているかな。

彼は、文壇の評価だけじゃなく、大衆にも人気があったから、すぐにドラマ化の企画が持ち上がったんだ。
自分の作品をドラマ化することに熱心な人だったしね。

あのとき、マスコミから派手に報道されたんだけど、葉子ちゃんは知っているかな。
1.うん
2.知らない