晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>B3

そう、彼の最高傑作といわれていた作品だったよね。
彼はその作品を契機に作風が変わった。
それまでは彼の作品は、あまりパッとしなかったんだけどさ。
その作品で、注目される作家の仲間入りしたんだ。

俺は彼の作品をドラマ化するにあたり、関係者にあったんだけどさ。
彼自身の雰囲気も、ガラッと変わったらしいよ。
それまでは、可もなく不可もなくというか。
なかなかいい作品が書けずに悩んでいる、青年作家って感じだったんだけどさ。

その作品の執筆中から、何か異様な雰囲気を発し出したらしい。
まあ、あれほどの作品を書くには、そのぐらい自分を追いつめる必要がある、そう思われていたらしい。
だから、当時、特に気にする人はいなかったそうだ。

そしてそれからは、彼からその異様な雰囲気が消えることはなかったそうだ。
その後、発表される作品は高い評価を受け続けた。
しかし彼は決して人前に出ることは無かった。
彼は多数の作品を世に送り出し、そして自殺で人生の幕を閉じたんだ。

自殺の原因ははっきりしていない。
作品のため、自分を追い込み過ぎたというのが、定説だったけどね。
彼の作品は、人間の異常心理をテーマにしたものでさ。
サスペンスとして扱われるときもあるし、スリラー、怪奇小説と扱われるときもあった。

しかし異常心理とはいえ、人間心理に迫るところがあったからさ。
前衛的な評論家は、正当な文学として、考えているようだった。
ところで葉子ちゃんは、異常心理とか興味あるかい。
1.ある
2.ない