晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>3A1

俺達は屋敷の中で入れる部屋は全て入った。
「は、はやく帰りましょうよ」
吉川がせかすようにいった。
「そうだな」
俺はそう答えるとみんなを見回した。
みんなも異論はないようだ。

その屋敷をあとにすることにした。
俺は玄関のノブをとる。
(あれ………)
扉は接着剤でくっついているように、開かない。
俺は鍵を見た。
鍵は内からも、鍵を使って鍵をかけるタイプだった。
(あれ、めずらしいな………)

俺は不思議に思った。
(もしかしたら明治の頃の鍵は、こういった物だったのかもしれない)
そう思って、自分を納得させた。
俺は鍵の束を見た。
(確か、この鍵だったかな………)
鍵を開けた。

俺はノブをとる。
しかし、扉はどうしても開かなかった。
「どうしたんです、泰明さん」
吉川が後ろから、乗り出すようにしていう。
「いや、扉が開かないんだよ………」
俺は当惑しながら、そう答えた。

「俺がやって見ますよ」
吉川がみんなを押しのけて、俺の所まで来る。
そして俺の手から鍵の束を取ると、次々と鍵を穴に入れた。
「開かない、なぜ開かないんだ………」
総ての鍵で開けようとしたが、扉は開かなかった。

「このまま、朝までいなくちゃならないんですか………………」
吉川は泣きそうな声を出す。
(確か、玄関の鍵は、他の部屋より少し大きかった筈だ………)
俺はその鍵がなくなっていることに気づいた。

鍵の束ねられている輪から、その鍵だけ無くなっている。
「鍵が無くなっている」
俺は誰にいうともなく、呟いた。
「どこかに落としたんじゃあ………」
吉川は嘆くように、俺に訴えた。
しかしそんな筈はない。

その鍵を束ねている金属の輪には、繋ぎ目がない。
だから一つの鍵だけが、抜けるわけがないんだ。
(いったい、どういうことなんだ………)
俺は当惑した。
そして鍵の束をもう一度見る。

すると鍵を束ねている輪に、鍵が付いていたと思われる小さい金属片が付いていた。
(もしかしたら玄関の鍵は、ここに付いていたんじゃあ………)
俺はそう自分を納得させる。
「そうだな、ちょっと探して来るよ」
俺はそういうと、歩きだした。

「俺もいきますよ」
河口君が同行を申し出る。
「俺も手伝うよ」
そして花田さんも協力を申し出た。
申し出なかったのは吉川だけだった。

「じゃあ、みんなで行きませんか。
どこか出口があったら、そこから出ればいいし………」
俺はみんなに、そう提案した。
そして吉川以外は俺の言葉に頷く。

「吉川、おまえは来ないのか………」
河口君は突き放すように吉川にそういう。
「俺一人で、待つのはいやだよ………。行くよ………。俺も行くよ」
そして俺達は、家の中に向かっていった。
すると、そのときだ。

俺達が通り過ぎた後に、シャンデリアが落ちてきた。
吉川は悲鳴をあげ、河口君に抱きつく。
そして、みんなは呆然として、床に崩れたシャンデリアを見つめた。
「何だあれは………」
河口君が天井を見て呟いた。

俺達は一斉に天井を見上げる。
天井では、何かがうごめいていた。
みんなのライトが、同時にそれを照らし出す。
「コウモリ………」
花田さんが誰とも無しに、そう呟いた。
天井には無数のコウモリがうごめいている。

それは不気味な光景だった。
しかし、一同はホッとしてライトを下ろす。
この屋敷で起きた怪奇現象を考えると、コウモリごときで驚くわけにはいかなかった。

「泰明さん、あれ………、あれは何ですか………」
みんながホッとしている中、吉川がまだライトを天井に向け、何か騒ぎ出した。
どうやら吉川はコウモリだということで、安心していなかったようだ。
一同は彼のライトの方向を一斉に見た。

そこには人影のようなものがある。
そしてみんなは、あらためてライトを向けた。
「飯山………」
河口君がそう呟いた。
その人影は、一緒に来る筈だった特殊効果の飯山だった。
みんなはその人影を呆然として見つめる。

「なぜ、飯山があんなところに………」
河口君が声を絞り出すようにいった。
そして、飯山の下の辺りに駆けより、天井を仰いだ。
みんなも彼の後に続き、同様に天井を見た。
彼がどんな風に天井に浮いているのか、良く見えない。

「おーい! 飯山!」
河口君は飯山に向かって叫んだが、返事はなかった。
「どうしたんだろう、飯山君………」
花田さんは不思議そうに訊ねた。
しかし、俺にはその疑問に答えることはできなかった。

「ち、血だ! ………」
そのとき突然、河口君が叫んだ。
彼は床を見つめている。
俺達はその視線を追った。
その視線の先には、何かどろどろした液体がある。
花田さんはそこへ行くと、その液体を指に取った。

「血だ………」
彼はその指を顔に近づけると、そう呟いた。
「どういうことなんだよ………」
血のことが確認されると、吉川が俺の背後で嘆きだす。
そして河口君は吉川の言葉と同時に、そう叫び出した。

「飯山! ………飯山!」
しかし飯山の返事はなかった。
俺はライトを飯山に向けた。
飯山の周りは鎖で縛られている。
そして首から血が滴り落ちていた。

「いったいどういう事なんだ………」
花田さんは誰とも無しにそう呟いた。
辺りに沈黙が走る。
「実は………、飯山の奴………、みんなを脅かそうと、先にここに向かったんです」
河口君が言葉を絞り出した。

「なぜ………、なぜ、こんなことに………」
その悪戯に河口君も噛んでいたんだろう。
「とにかく屋敷を出て、警察を呼ばなければ………」
花田さんの提案にみんなが頷いた。

「誰かに、殺されたんじゃあ………」
俺は興奮して、そんなことをいった。
「まだ、犯人がこの屋敷の中に………」
吉川は怯えた声でそう呟く。
とにかく俺達は鍵を探しに行くことにした。
1.二階へ行く
2.左の廊下へ行く
3.向かいの扉を開く