晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>3T5

「念のために、あの玄関が正面に見えるところまで行きましょう」
俺は花田さんの顔を見て、そう主張した。

「そうだな、ここまで来れば、そんなにあわてることはない。泰明君のいう通り玄関の方へ行こう」
花田さんは俺の意見に賛成してくれた。
そしてみんなが頷くのを見て取ると、俺は玄関の方に走った。
しかし玄関には、いつまで経っても、着かなかった。

(どういうことなんだ………)
俺は心の中でそう呟いた。
一同の足取りは徐々に重くなってくる。
「いったいどうなっているんですか!」
吉川がそう叫び、走るのを止めた。
それはみんなの気持ちを、代弁しているようだった。

そして一同も走るのをやめた。
「子供部屋から、生け垣で作ってある迷宮が見えたんだ………。
もしかしたら、その迷宮に迷い込んだんじゃないかな………」
俺はみんなに向かって、そういった。

「でも、たかが生け垣の迷路じゃあないですか」
河口君が怒ったように叫ぶ。
俺達の間にギスギスした雰囲気が流れた。
「この程度の生け垣なら、通り抜けられるんじゃあないか」
花田さんは、みんなをなだめるように口を挟んだ。

「そうですよ。生け垣を抜けて真っ直ぐ行けば、迷路を抜けられるじゃあないですか」
河口君は、割ってはいるようにそう言い放つ。
また、みんなの間に重い雰囲気が漂った。

「とにかく河口君の言う通り、生け垣を抜けていかないか」
花田さんが、そう結論じみたことをいった。
これ以上、険悪な雰囲気になることも嫌だったので、彼の意見に同意する。

「じゃあ、あの屋敷を背に進んでいきましょう」
河口君はそういうと、生け垣の中に入った。
そしてみんなは彼の後に続いた。
生け垣は思ったより密度が薄く、通り抜けることは容易だった。

まもなく、その生け垣を抜け、俺は周囲を見回した。
そこは入った所と同じ、生け垣に囲まれた場所だった。
(しかし、屋敷を離れたのは確かだ………)
俺の心に安堵感が広がる。
そして河口君の所へ行った。

「河口君、次は俺が先頭を行こうか、ははっ」
俺はそう明るく話し掛けたが、河口君は呆然として前を見つめている。
「河口君………」
河口君は、まるで石像のようだった。
俺は彼の視線を追った。
そこにはあの屋敷が見えた。

(俺達は確かに、あの屋敷を背に進んだ筈だ………)
みんなもそのことに気付いたらしく、屋敷を見つめている。
俺達は、自分達が尋常じゃない空間にいるのを痛感した。

「後のことは良く覚えていない」
泰明さんはそういうと、黙ってしまった。
(どうしたんだろう………)
私は心配だった。
泰明さんの姿は妙に存在感が無く、何か透き通った感じがする。

「俺達はとんでもない所に、迷い込んでしまった」
沈黙が流れる中、泰明が口を開く。
「みんなの元に帰りたかったな………」
そういうと、泰明さんの姿がスーッと消えていった。
(泰明さん………………)


すべては闇の中に…
              終