晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>4A1

◆最初の選択肢で「1.うん」を、2番目の選択肢で「1.遺作」を選んでいる場合

俺達は玄関のホールに戻った。
「とにかく、窓を破ってでも、外に出ましょう」
みんなに俺はいった。
「そうだな、しかし部屋に入るのは危険だ」
花田さんは淡々と、そういった。
確かにそうだった、みんなは黙って考えている。

「河口君は、なぜこの屋敷を………」
河口君の顔を見て、花田さんはそう聞いた。
「いや、このドラマの役が決まってすぐのころ、この屋敷に尾岳冬良が訪れたということを、雑誌か何かで見たんです。
それでやけに気になったんですよ。

調べて見ると個人の資格では入れないから、泰明さんに頼んだってことなんです」
河口君は、それだけいうと黙ってしまった。
「とにかくそんなことは、屋敷を出てから考えましょう」
俺はみんなに提案する。
そしてみんなは黙って頷いた。

河口君は、さっきの話が終わってから、ずっとうつむいている。
責任を感じている、そんな感じだった。
(しかし、どうやってこの屋敷を出るかだ………)
俺は当惑した。

「わっはははは、わっははははっ」
突然、河口君は笑い出した。
みんなは呆然として、河口君を見つめている。
「花田さん、ははっ、どうしても俺はわからなかった。どうしても、花田さんが加筆した部分が納得できなかったんですよ。

俺は原作を何回も、何回も読んで役作りをした。
しかし、成りきれば成りきるほど最後のシーンが納得できなかった」
彼は笑みを浮かべている。
それは全ての問題を解決した喜びに、満ちている。

「あの主人公はこうしたんですよ」
俺達の持っていたライトの光が消える。
そして、彼は二階に登っていった。

「みなさん、殺し合って下さい。
そして、最後の一人だけ、この屋敷から生きて返してあげましょう、ふふっ、ははははっ」
その彼の口調は、小説の主人公の台詞回しのそれであった。
激しい音がした。
(河口君………)
河口君が二階の踊り場から、飛び降りたと直感した。

「そうか、そうだったのか………、ははははははっ」
花田さんは胸のつかえが下りたような、明るい声でそう呟いた。
これで俺の話は終わりだ。
まあその後スタッフやキャストの入れ替えがあったけど、ドラマは無事に完成したよ。

特にラストシーンの評判が高くてね。
えっ、いまの話?
作り話に決まっているだろ。
ははっ、まあ大作と騒がれたから、こんなサイドストーリーがあってもいいと思ってね。

泰明さんの話が終わった。
話している間、私たちは何も声を出せないぐらい泰明さんは夢中で話した。
(確かに、そんなお化け屋敷のような所が、現実にあるわけないわ)
私はそう思った。

(でも、もし本当だったら、みんなを殺して泰明さんは生き延びたことになるわ、ふふっ)
泰明さんの顔を見た。
哲夫おじさんは真面目な顔をして、泰明さんに話しかける。

「泰明兄さん、さっき着替えるのが見えたとき、体が傷だらけだったけど」
やさしそうに笑って、泰明さんは哲夫おじさんに返事をした。
「哲夫、人の着替えを覗くなよ、ははっ。まあ、大学の時、クラブでちょっとね」
哲夫おじさんは激しく頷いて、泰明さんの話を聞いている。

(でも、泰明さん、大学のとき映画のサークルじゃあないかしら………)
私は前に泰明さんが、そんなことをいっていたのを思い出した。
(まあいいわ。今度聞こう、ふふっ)


       (七話目に続く)