晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>4D2

俺達は右の部屋に入った。
あの使用人の責任者がいたんじゃないかと思える部屋だ。
みんなは部屋のあちこちに散った。
河口君はベッドをずらして調べ出している。
俺は机のところにいった。
机の下を見たが、それらしい仕掛けはない。

(あれはただのフィクションだったんでは………)
俺は抜け穴があることを疑いだした。
「泰明さん、ありましたか」
河口君がベッドの方から叫ぶ。
「そんな抜け穴あるわけないじゃあないですか」
吉川が泣きそうな声で叫ぶ。

そして彼は地団駄を踏むように扉に向かった。
もの凄い音と共に吉川が消えた。
みんなは小走りで駆け寄る。
吉川のいた筈の場所には四角い穴が開いている。

「抜け穴じゃあないですか!」
河口君は吉川のことを忘れているかのように、嬉しそうに叫んだ。
「吉川! 大丈夫か!」
俺は穴の底に向かって叫んだ。
「こ、ここは………、早く、早く助けて下さいよ!」
吉川は無事のようだ。

「吉川! そこは抜け穴なのか!」
河口君は吉川なんてどうでもいいような感じで叫んだ。
「暗くてそんなのわかりませんよ………。そんなことより、早く助けてくださいよ」
吉川はか細い声で助けを求めた。

「足下でライトが光っているじゃないか、それで周りをみてみろよ!」
助けを求めている吉川の言葉が聞こえないかのように、河口君が叫ぶ。
吉川も諦めたのか、ライトを拾うと、怯えながら周囲に光を当てた。

光が周囲に当てられると、突然、吉川の悲鳴が轟いた。
「吉川! どうした!」
俺は叫んだ。
吉川のライトはまた地面に転がる。
「み、み、み………」
彼はわけのわからない言葉を発した。

「泰明君、さっきから気になっていたんだけど、それ梯子じゃないか………」
花田さんはいつもと同じ口調で冷静に話す。
「あ………、そうですね」
みんなの目が梯子に集中する。
河口君はその梯子を見て取ると、そこに行き下り始めた。

(なんだかんだいっても、河口君の奴………、ははっ)
俺はちょっと微笑んだ。
そしてみんなも次々と下へと下りていく。
俺が下へ着くと、河口君が吉川をなだめている。
そして俺達の周囲には多数のミイラがあった。
俺は驚かなかった。

それはあの小説から、ある程度、予測していたからだ。
(しかし、もしあの小説が実話なら、現実で殺人をしたのは誰なんだ………)
俺は当惑した。
「とにかく出口を探しましょう」
みんなは頷くと、俺を先頭に抜け穴を進んだ。

穴の雰囲気はほぼ小説通りだった。
そしてその抜け穴は少し開けた場所にでる。
(こんな場所は小説にはない………)
俺は周囲を見回す。
そこには古ぼけた机がある。
俺はそこに足を運んだ。

机にはほこりがつもり、かなり長い間使われていないことを物語っている。
上には筆記用具があり、そして手帳が置いてあった。
(カレンダーか………)
そのカレンダーは十年ほど前のものだ。
所々に印が付いている。

「泰明さん、早く出ましょうよ」
吉川が背後で叫ぶ。
俺は取り敢えず手帳を持つと、彼らのもとへ行った。
そして抜け穴を更に進んだ。
永遠に続くかと思われた抜け穴も出口が見えてきた。
吉川が喜びの声を上げて、走り出す。

そしてみんなも後に続いた。
「やった!」
みんなは一斉に歓喜を上げた。
そこは宿泊しているホテルの直ぐ近くだった。
そして、時計を見るとホテルを出てから、一時間もたっていなかった。

これで俺の話は終わりだ。
えっ、あの手帳?
あの手帳は尾岳冬良が書いた物だった。
内容はほぼ小説通りで、むしろ小説より読み応えがあった。
あれは彼が書いた手記、いや、観察日記かな。

彼はあの作風が変わったといわれた小説を書くために、小説通りのことをあの屋敷で実験してたんだよ。
小説通りというよりは、むしろ、あれは小説でなく実話だったてことだよ。
彼はあの経験で後の作品を生み出していったんだ。
洋館がどうなったかって?

実は次の日、いったけど絵も、掛け軸も、日本刀もなかった。
ただの寂れた洋館だったよ。
だから撮影は予定通り完成して、放送された。
いったいあの夜の出来事はなんだったんだろう。
今になっても、わからないよ。
不思議な夜だった………。

泰明さんの話は終わった。
「そういえば泰明兄さん、兄さんが書いたシナリオでドラマをつくるって話、どうなったんですか」
哲夫おじさんは、思い出したように大きな声が叫んだ。

「ああ、あれか…、ちょっと詰まっていてね…」
ちょっと渋い顔をして、泰明さんは答える。
「えっ、泰明さん。どんな話なの?」
私は思わず、そういった。

「いや、ちょっとサスペンスをね…。でも犯人の心理がわからなくてさ」
泰明さんはそういうと、私の方を向き、ちょっと気味悪く笑う。
「どんな話なんですか、泰明兄さん」
怒鳴るような哲夫おじさんの声が響いた。

「そうだな…、それはある旧家に親戚が集まって、怪談をするんだ……」
泰明さんの話は更に続いた。
そしてそれは、今日私が体験した出来事、そのものだった。
彼の後ろに鈍い光が見える。
(これから…、私達は…)


すべては闇の中に…
              終