晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>A4

だよねー。
絶対、笑っちゃうって!
しかも、この男って登場の仕方から変じゃん。
服装も変わってたし……。
こいつ、いったい何者?
……っていう疑いがあったら、そうそう、うっとりとはしてらんないよねぇ。

あからさまに疑惑の眼差しで見つめる私に、風間はさらに言葉を続けたよ。
「僕を呼んだだろう。さぁ、願いをいいたまえ、マドモアゼル」
……私は黙ってた。

「オオ、セニョリータ! 願いはないのかい?」
……それでも、私は返事をしなかったの。
…………どれくらいの間、そうしてたのか。
私は一言も喋らず、風間は泣きそうな顔になりながら言葉を並べ立ててたよ。

声は枯れ、気の利いた甘い台詞もネタ切れ状態だったと思うな。
「僕の……、い、愛しい…………ゴホッ、ゴホッ」
……こんな感じ?
なんだか、私がいじめてるみたいじゃん。

だからさぁ……、適当なこといって指輪の中に戻ってもらおうと思ったの。
その時!
「さっさと、どっかへ消えてしまえーーー!!」
って、大きく叫ぶ声が聞こえたの!!
驚いて振り向くと……。

そこには、私の婚約者が立ってたの。
指輪をプレゼントしてくれた人だよ。
彼は、スンバライトに魔人が封印されてるなんて、まったく知らなかったのね。
それで、指輪から現れた風間に嫉妬して…………。

この婚約者の願いを聞くと、それまではボロボロに疲れ果ててた風間が、パッと嬉しそうな表情になったんだ。
そして……、
「かしこまりました……」
って、風に乗ってどっかへ消えてっちゃった。

ハッと気付いた時には、スンバライトのスター効果もなくなってたよ。
婚約者のつまんない嫉妬が、スンバライトの魔人を開放しちゃったのさ……。
「あーあ、馬鹿な男だね」
そういって由香里姉さんは、ぎゅっと拳を握ったわ。

自分の旦那様を、そんなに責めなくってもいいのに……。
そりゃあ……、せっかくの魔人を逃がしちゃったのは残念だけど……。
「……だからさぁ、私、結婚式が終わると同時に離婚したんだ。
そいつと……」

ええっ?
もう離婚しちゃったの?
しかも、結婚式の直後に!?
………………呆れて何もいえないけど……。
由香里姉さんらしいやって気もする。

「それでね……、私、もう一度、魔人を手に入れようと思うんだ。
大丈夫、新しい魔人を造って封印すればいいだけだから……」

人の噂で聞いたんだけどさぁ。
スンバライトの魔人を創造するには、六つの魂が必要なんだって。
六つの魂が、六角形のスター効果を形作って封印となるんだってさ……。
ひぃ、ふぅ、みぃ…………。
ちょうど六人いるじゃん……。

由香里姉さんはそういって、ニヤリと笑ったの。
由香里姉さんの薬指にはめられた指輪のスンバライトが、燃えるように赤く赤く輝いて……。
そういえば……、持ち主の感情によって色彩が変化する石だって、哲夫おじさんがいってたっけ……。
赤は…………。

赤はどんな感情を意味するのかしら?
由香里姉さんは何もいわないけど、その心の奥底を指輪が表現してるみたい……。
指輪はどんどん輝きを増していって……。
ま、まぶしい……!
何なの! この光は!?

「葉子、哲ニイ、泰ニイ、正美ネエ、和子おばさん、良夫……。
今のうちに、名前呼んでおいてあげるよ。だって魔人になったら、みんなの名前、風間になっちゃうもん……」


すべては闇の中に…
              終