晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>C3

「面白かった……」
やっぱり、哲夫おじさんはこうでなくっちゃね。
「そうかい? 葉子ちゃんが喜んでくれて、自分も嬉しいぞ。がっはっはっはっは」
そうそう、この豪快な笑い声を聞くと、なんでも冗談で済んでしまいそうなんだもん。

ついさっきまで緊張していた分、なんだか笑いが込み上げてくる。
私だけじゃないわ。
押し殺したような笑い声が、そこここから聞こえてくるんだもん。
……でも、けっきょく由香里姉さんの指輪は本物だったのかしら?

ふと、由香里姉さんの方を見ると……。
由香里姉さんは、手をぎゅっと握り締めて小刻みに震えてる。

薬指にはめられた指輪のスンバライトが、燃えるように赤く赤く輝いて……。
そういえば……、持ち主の感情によって色彩の変化する石があるって、誰かがいってたっけ……。
楽しい時の黄色。
不安の紫。
恋心のピンク。

失意のブルー。
赤は…………。
……確か、怒りの色。
由香里姉さんは何もいわないけど、その心の奥底を指輪が表現してるみたい……。
その怒りが尋常じゃないのは、指輪の輝きを見ただけでわかる。

指輪はどんどん輝きを増していって……。
パリーーーーーン!!
って大音響をあげて、スンバライトが割れちゃったの。
幸い、誰もケガをした様子はないけど……。
いったい、何が起こったっていうの?

「ヤダ、割れちゃった……」
そういいながら、由香里姉さんは指輪をはずしてる。
でも、その顔はなんだか笑ってるみたい……。
「EJKOSUDWX……」
…………えっ?
「DCVZKAS……」
小声ではっきりとは聞き取れないけど……。

由香里姉さんはニヤニヤしながら、わけのわからない言葉を呟いてる。
何をいってるの……?
やっぱり、指輪が割れたのがショックだったのかしら?
「GMKJOP!!」
由香里姉さんが、声を張り上げた瞬間!

ふいに、障子の外からまぶしい光線が差し込んできたの。
何なの! この光は!?
その光は、すぐに消えてしまったわ。
今の光……。
どうやら、車のライトだったみたいだけど……。

一人、ニヤニヤと笑っているのは由香里姉さんだけ……。
確かに、誰か来たみたい。
でも、いったい誰が……?


       (七話目に続く)