晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>D4

「面白くない……」
全然、ちっとも笑えないよ。
けっきょく、いつもの冗談だったんじゃない。
「そうかい? 本当にこの懐中電灯はスンバライトって名前なんだがなぁ……」
哲夫おじさんは頭をかきながらブツブツいってるけど、もう知らない。

みんなも、緊張してた分、どっと疲れを感じてるみたいだし……。
由香里姉さんなんて、手をぎゅっと握り締めて小刻みに震えてる。

薬指にはめられた指輪のスンバライトが、燃えるように赤く赤く輝いて……。
そういえば……、持ち主の感情によって色彩の変化する石があるって、誰かがいってたっけ……。
楽しい時の黄色。
不安の紫。
恋心のピンク。

失意のブルー。
赤は…………。
……確か、怒りの色。
由香里姉さんは何もいわないけど、その心の奥底を指輪が表現してるみたい……。
その怒りが尋常じゃないのは、指輪の輝きを見ただけでわかる。

指輪はどんどん輝きを増していって……。
パリーーーーーン!!
って大音響をあげて、スンバライトが割れちゃったの。
幸い、誰もケガをした様子はないけど……。
いったい、何が起こったっていうの?

「ヤダ、割れちゃった……」
そういいながら、由香里姉さんは指輪をはずしてる。
でも、その顔はなんだか笑ってるみたい……。
「EJKOSUDWX……」
…………えっ?
「DCVZKAS……」
小声ではっきりとは聞き取れないけど……。

由香里姉さんはニヤニヤしながら、わけのわからない言葉を呟いてる。
何をいってるの……?
やっぱり、指輪が割れたのがショックだったのかしら?
「GMKJOP!!」
由香里姉さんが、声を張り上げた瞬間!

ふいに、障子の外からまぶしい光線が差し込んできたの。
何なの! この光は!?
その光は、すぐに消えてしまったわ。
今の光……。
どうやら、車のライトだったみたいだけど……。

一人、ニヤニヤと笑っているのは由香里姉さんだけ……。
確かに、誰か来たみたい。
でも、いったい誰が……?


       (七話目に続く)