晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>F11

お、葉子。
なかなか、面白いこというじゃん。
クローン人間かぁ……。
SFの世界なんかじゃ、定番だよね。
髪の毛一本からでも、本人そっくりな人間ができるっていう話だけど……。

今現在、クローニングの研究がどこまで進んでるのかなんて、研究者以外はまったく知らないんじゃないかなぁ。

個人の研究にしても、公の機関にしても、秘密主義が多いからね。
たださぁ、この前図書館で古い新聞記事ばかりを集めた本を調べてたら、興味深い記事を見つけたんだ。
明治時代の初頭の頃の、ある科学者に関する記事だったんだけどさぁ……。

そのコピーがこれなんだ。
ね、見出しに、
『神か悪魔か? 人造人間誕生』
って書いてあるでしょ?
しかも、その人造人間を産み出した科学者の名が……。
やだ、コピーミスで切れちゃってる。
ごめん、ごめん。

これじゃあ、何のことだかわかんないよね。
きっと、葉子の興味を引く名前だと思ったんだけど……。
まぁ、いいや。
けっきょく、このカップルは披露宴終了後、即離婚。
どうやら一番の理由は、夫の見分けがつかないってことだったみたい。

せっかく見つけた花嫁だったのにね。
風間一族は、多くの謎を残したまま忽然と消えてしまったのよ。
まるで、初めっから存在してなかったかのように……。

…………と、由香里姉さんがここまで話した時、ふいに、障子の外からまぶしい光線が差し込んできたの。

何なの! この光は!?
その光は、すぐに消えてしまったわ。
「誰か来たのかしら?」
和子おばさんは、襖を開けて廊下の様子をうかがってる。
今の光……。
どうやら、車のライトだったみたいだけど……。

一人、ニヤニヤと笑っているのは由香里姉さんだけ……。
「あ、ほら。玄関の開く音がする。
やっぱり誰か来たんだよ」
確かに、誰か来たみたい。
でも、いったい誰が……?


       (七話目に続く)