晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>J12

「それもいいな……」
私の心は、ちょっとだけ揺れた。
だってとっても楽しそうなんだもん。
実は私、UFOって見たことなかったんだぁ。
もしかしたら、乗せてもらえるかもしれないし……。

それに、お金持ちなんでしょう……?
……やだ、私ったら、泰明さんっていう好きな人がいるのに。
浮気者なのかなぁ……。
由香里姉さんは、そんな私の心を見抜いたかのように意地悪な笑みを浮かべてる。
そして……、

「そうなんだ……。葉子がそういうんなら、呼んであげるよ」
「えっ!?」

「実はさぁ……。私には、なんとなく彼らの行動がわかるんだ。あの日……。いつまでもUFOを見送ってたせいかなぁ。時々、自分じゃない人たちの漠然とした感情が伝わって来るんだよ。たぶん、彼らのものだと思うんだ。きっと意識が同調しちゃってるんじゃないかな……」

「由香里姉さん、それって……?」
「わからない? 私には彼らの居場所がいつでも掴めるってことよ。
こうやって目を閉じて意識を集中するでしょ?」
そういって由香里姉さんは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
いったい何が起きるっていうのかしら?

彼らの居場所がわかって、どうするっていうの?
みんな、じっと押し黙って由香里姉さんを見つめてる。
すると突然……!
「来たわ!!」
って、由香里姉さんが叫んだ。
そして、次の瞬間……!
障子の外から、まぶしい光線が差し込んできたの。

あまりのまぶしさに目を開けてられない!
何なの! この光は……!?
なんだか、この光に包まれてると身体から徐々に力が抜けていくみたい。
でも、そのけだるさがすっごく心地いい……。
<MGDISAEIPKAFA……>

何?
今、何かいった?
この声は、どこから聞こえてくるの……?
もしかして、これが由香里姉さんのいってた、宇宙人の意識……?
<ASDFREMXXK?>
確かに、頭の中に直接響いてきてるみたいだわ。

おもしろーい。
私は目を閉じて、しばらくその不思議な声に耳を傾けたの。
<RKHGFDAZZO?>
……奇妙な響きだわ。
<IELKFOPPDC?>
……何ていってるんだろう?
ふと、目を開けると……。
私の身体は、白い光に包まれて夜空に浮かび上がってたの。

足元には、黒く闇に包まれた山と、ぼんやりと月明かりに照らされた大きな家……。
たった今まで、私がいた場所……。
そして、空を見上げると……?
私の頭上には、キラキラと光り輝く銀色のUFO。
あれには、『風間さん』がいっぱい乗ってるのね。

早く会いたいな……。
早くUFOに乗りたいな……。
後、もう少し……。
もう少しで……。
あっ、ハッチが開いたわ。
ハッチの中には…………。

「きゃーーーーーっ!!」
ハッチの中で私を出迎えたのは、緑色のアンモナイトそっくりの顔をした宇宙人だったのよ……!
これが、風間さん!?
話に聞いてたのと違うじゃない!

こんなことなら……って考えがよぎった時、アンモナイトたちの中に見覚えのある顔を見つけたの。
「由香里姉さん……!?」
……なんで由香里姉さんが、アンモナイトたちの中にいるの?
すると、由香里姉さんは私を見て、

「やぁ、葉子ちゃんだったよね」
……って、ニヤリと笑ったの。
「どうかしたの、由香里姉さん?
『葉子ちゃんだったね』……なんて、変よ」

「はっはっは、いやー失敬、失敬。
今の僕は、君の親戚の由香里姉さんだった……」
由香里姉さんは、そう笑って大袈裟に肩をすくめてみせる。
そして……。
「きゃっ!」
由香里姉さんは、自分の首の皮に指を引っかけると、ズルズルと顔の皮を剥がしたの。

由香里姉さんの顔の皮の下には、見知らぬ男の人の顔が……。
この人が、風間さん……?
「おっと、この顔も借り物だったな……」
その男の人も、勢いよく自分の顔の皮を引き剥がした。
その皮の下には……。

他の宇宙人たちとまったく同じ、緑色をしたアンモナイトそっくりの頭があったの。

「CKJIUDKHKJSAF! 歓迎するよ、僕の花嫁よ!」
アンモナイトもどきは、ヒゲのように細い触手を震わせながらそういったわ。

そして私の手をしっかりと握り、もう片方の腕を振り上げて叫んだ。
「HJOPPTRAS!! いざ行かん我等が星へ!!」
それが合図だったのね。
UFOのハッチが音もなく閉まり、私は、また白い光に包まれた。

白い光は、一条の流星のように宇宙を渡って行くんだわ。
それはそれでロマンチックなんだけど……。
やっぱり、泰明さんのお嫁さんになりたかったよー。
由香里姉さんの馬鹿ーーー!
……あれ?
そういえば、本物の由香里姉さんはどこ……?

考えても、知る術もないんだけど…………。


すべては闇の中に…
              終