晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>K12

「嫌よ! 絶対に嫌!!」
思わず大きな声を出しちゃった。
だって由香里姉さんたら、ひどいこというんだもん。
由香里姉さんは知らないだろうけど、私には、ちゃーんと好きな人がいるんだから。

由香里姉さんは、私の声の大きさに一瞬びっくりしてたみたい。
だけど、すぐにまたいつもの笑みを浮かべて、こういったの。

「葉子はそういうけどさぁ……。私には、なんとなく彼らの行動がわかるんだ。あの日……いつまでもUFOを見送ってたせいかなぁ。
時々、自分じゃない人たちの漠然とした感情が伝わって来るんだよ。たぶん、彼らのものだと思うんだ。きっと意識が同調しちゃってるんじゃないかな……」

「由香里姉さん、それって……?」
「わからない? 私には彼らの居場所がいつでも掴めるってことよ。
こうやって目を閉じて意識を集中するでしょ?」
そういって由香里姉さんは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
いったい何が起きるっていうのかしら?

彼らの居場所がわかって、どうするっていうの?
みんな、じっと押し黙って由香里姉さんを見つめてる。
すると突然……!
「来たわ!!」
って、由香里姉さんが叫んだ。
そして、次の瞬間……!
障子の外から、まぶしい光線が差し込んできたの。

あまりのまぶしさに目を開けてられない!
何なの! この光は……!?

まぶしさに耐えられなくなった私は、思わず目を閉じちゃった。
どれくらいそうしていたのか……。

「あはは……。葉子ったらそんなに脅えないでよ。やだなぁ、簡単な悪戯にすぐひっかかるんだから」
……なんていう、由香里姉さんの声が聞こえてきたの。
さっきまでの緊迫した様子とは、打って変わって明るくはずんだトーンだわ。

私が、恐る恐る目を開けると……。
由香里姉さんばかりか、みんなまで、めいっぱい笑い転げてる。
「何? どうしたの? 何があったの? あの光は……?」
「あーあ。まだ、あんなこといってら。しょーがねーなー、葉子ネエってばよぅ」

「あいかわらず口が悪いな、良夫君は……。ははっ」
「まったく、誰に似たんだか……」
「葉子ちゃん、気にすることないぞう。その素直なところが、葉子ちゃんの魅力なんだから」
私、どこか変……?

「素直っていったって、限度ってものがあるでしょうに。今時、こんな子供騙しにひっかかる子いないわよ」
みんなは、あの謎の光を見ても、何も思わなかったっていうの……?

「あーあ、見てらんないなぁ、もう!」
「葉子ちゃん、今の光は車のライトだよ。誰か来たんじゃないかな。たぶん……」
優しく説明してくれた泰明さんの言葉も、それ以上は私の耳には届かなかった。

だって、あの障子のすぐ外は木が生い茂る裏山で、車が通れるような道どころか、人が歩くのもやっとのはずだもん……。
だけど、みんなはそれに気付いてないみたい。
「あ、ほら。玄関の開く音がする。
やっぱり誰か来たんだよ」
確かに……、誰か来たみたい。
でも、いったい誰が……?


       (七話目に続く)