晦−つきこもり
>六話目(藤村正美)
>E8

「そんな約束、できないわ。何をいわれるかも、まだわからないのに……」
「いいえ、約束しなくちゃだめですわ。これは大切なことなんです」
私の言葉を遮るように、おばさんが声を大きくした。

「ここには、何か悪いものが集まりつつあるんです。今のうちに解散しなくては、大変なことになりますわ」

おばさんの顔は、真剣そのものだ。
そんな、まさか本当に……?
聞いてみたいのに、声が出ない。
何だか頭がボンヤリする。
急に、部屋の中の温度が低くなったような気がした。
こんなに、この部屋は薄暗かったかしら?

それに、部屋の中に漂う白いもやのようなものは……。
「葉子ちゃん、
どうしたんだい?」
「ボーッとしてんなよ、葉子ネエ」
みんなが、心配そうに私を見ている。
何かいわなきゃ。

「なんでも……ないわ。私、もう寝るね……」
「葉子ちゃん?」
不審げな声。
この声は、誰だったかしら……?
私はボウッとのぼせたような気分で、よろよろと部屋を出た。

長い廊下の先に、もらった部屋には、もう布団が敷いてあった。
もぐり込んで、頭まで布団をかぶる。
何だか寒気がする。
私は震えながら、いつのまにか眠りについた。
…………………………何かの気配を感じて、目がさめた。

まぶたを開けた私の目の前に、白い顔が浮いていた。
全部で十個くらい?
真ん中に浮かんでいる顔は、誰か知っている人のように思えた。
でも、誰かしら。
「うふふ……待ちかねたわ、葉子ちゃん」
白い顔が、口を開いた。

「本当においしそうだこと。うしみつどきを過ぎると、私たちの力が弱くなるから、心配したわ。よかった、間にあって」
この声にも覚えがあるわ。
何だか、喜んでいるみたい……。
聞いている私まで嬉しくなって、思わず微笑みが浮かぶ。

「ええ、心配いらなくてよ。痛くなんかありませんからね……」
そういった顔の口が、ガッと耳まで裂けた。
私ののどに、かぶりつく。
……痛いかと思ったけれど、そうでもなかった。
ただ、熱いものが首から肩、そして胸やあごを濡らしていく。

遠くなる意識の中で、私は白い顔が、正美おばさんだったことに気づいた。
なんで、おばさんが?
おばさんは人間じゃなかったの、それとも……。

正解を見つける前に、私の意識は闇に沈んだ。


すべては闇の中に…
              終