晦−つきこもり
>六話目(藤村正美)
>G7

そんなこと信じられない。
おばさんは、きっと私たちをかつごうとしてるだけよ。
真面目そうな顔して、案外楽しい人なのね。
私は笑って、そういおうとした。
そのとき。
正美おばさんは黙って、結わえていた髪をほどいた。

ふわりと、黒髪が肩に広がる。
その間から一瞬見えたのは…………あれは、木の枝?
ううん、枝っていうより、もっと節くれだって、細かい毛の生えたものみたい。

だけど、髪の毛の間から、そんなものが見えるはずがないわ。
それじゃあ、まるで、さっきの話の……。
私の考えを見抜いたように、おばさんの笑みが大きく広がった。

「あら、葉子ちゃん。何か見えたのかしら?」
いつも穏やかな瞳に、油のようにぬめる光が宿った。
そして、突然巻き起こった風に、正美おばさんの髪がぶわっと舞い上がる。
それは、まるで謎めいた生き物のように、美しくも恐ろしい姿に見えた……。


       (七話目に続く)