晦−つきこもり
>六話目(藤村正美)
>R4

そうなんですの?
少し意外ですわ。
でも、葉子ちゃんは、佐原さんと気が合うのかもしれませんわね。
なぜって、彼女も同じ選択をしたからですわ。
佐原さんは、佐藤さんを、例の個室に案内したのです。

「じゃあ、朝までここで休んでいてくださいね」
彼女の言葉に、佐藤さんはわずかにうなずきました。
それも、視線をそらしてね。
こういう方って、いますわよね。
私はあまり、好きになれないタイプですけれど。

佐原さんも、やっぱり同じだったんですわね。
それ以上は何も話さず、部屋を出てしまったのです。
けれど、ナースステーションに戻ってから、ふと気になりました。
佐藤さんに、せめて気をつけるよう、注意してあげてもよかったのでは……とね。

一旦そう思ってしまうと、もう頭から離れなくなってしまったのです。
だから、朝になるとすぐ、佐藤さんの病室に向かいましたわ。
「佐藤さん、朝の検診です」
ノックももどかしく、ドアを開けると、佐藤さんの姿が目に入りました。

昨日の夜から、まるで動かなかったように、同じ場所に立っているのです。
「佐藤さん……」
声をかけようとした佐原さんは、次の瞬間、息を飲みました。
朝の光の中で、佐藤さんのひょろ長い姿が、ゆっくり薄れて消えていったのです。

テレビや映画などでありますわよね。
フェードアウトっていうのですか?
ちょうど、あんな感じだったそうです。
もちろん大騒ぎになりましたけれど、それっきり彼が見つかることは、なかったのですわ。

身寄りもなかったようですし、本当の意味で行方不明になってしまったのです。
これも、『死を招くベッド』の力なのでしょうか。
とうとう、人間を丸ごと消してしまえるほどの力を、持ったというのでしょうか?
……私には、わかりませんわ。

けれど、この世の中には、私たちの考えも及ばないようなことが、いくつもあるのです。
遊び半分で、こんな話をしていると…………どうなるか、わかりませんわよ。
今夜、あなたが寝るときには、充分気をつけることですわ。
怪談って、霊を引き寄せるというじゃありませんか。

今日は、もう6つも話を聞いてしまったんですもの。
何かありますわよ。
これは、私のカン……うふふ。
布団に入って、電気を消したら、目をつぶって二十、ゆっくり数えてごらんなさい。
それから目を開けて、そこに見えるのは……!

幽霊なんて、見ないといいですわね…………うふふ。


すべては闇の中に…
              終