晦−つきこもり
>六話目(藤村正美)
>Y4

そうですか……。
残念ですわ。
正美おばさんは、悲しげにうつむいた。
その姿が、ボウッと薄れていく。
ええっ!
なに、これ!?

呆然とする私の目の前で、由香里姉さんが、哲夫おじさんが……消えていく!?
「さよなら、葉子ちゃん……」
泰明さんまで!
一緒に話していたみんなの姿が、次々に消えていってしまう。

完全に消えた後、今度は座敷の輪郭まで薄れだした。
「嘘……嘘でしょっ!?」
わけがわからない。
いったい、何が起こっているの?
みんな、どこへ行ったの!?

……気がつくと、私は、大きな建物の焼け跡のような場所に、座り込んでいた。
周りの景色には、何となく見覚えがある。

ここは……。
「そんなとこで、何してるのかね?」
野太い声に、私は振り向いた。
自転車を引っ張った、人のよさそうな警察官が立っている。
「前田さんの知り合いか、何かかい? もう、助かった人たちは、病院に収容されてるよ」

……どういうこと?
この人は、何をいっているの?
「しかしまあ、災難だったねえ。
先代夫人の七回忌さえなければ、もっと犠牲者は減っただろうに」
「ど、どういうことなんですか!?」
私は警察官に駆け寄った。

「昨日の夜遅く、前田さんの本家が火事で全焼しただろって、いってるんだよ。本当なら今日が、七回忌の法要だったはずなのに、それどころじゃなくなったねって……」
本家が火事!?
だって、今まで私は本家にいたじゃない。
そこで話を…………。

心臓がドクンと飛び上がった。
さっきの、正美おばさんの言葉を、急に思い出したから。
「本当に、幽霊っているんですのよ……」
おばさんは、寂しそうな顔でそういった。
私が信じないっていったら、みんな消えてしまった。
それに、この周りの景色……。

焼け焦げていて、わからなかったけど、これは確かに、本家の庭から見えた景色だわ。
だけど、まさか……そんな馬鹿なことが!
警察官は、まだ話し続けてる。

「残念なことに、火のまわりが早くて、助からなかった人も多かったんだよ。例えば……」
「やめてくださいっ!!」
私は叫んだ。
死んだ人の名前なんて、聞きたくない。
その中に、もしも、あの五人の名前があったら……。

急にめまいがして、私は倒れてしまった。
「葉子、
葉子ってば!」
私は、ハッと目覚めた。
ここは……電車のボックスシートだわ。
前の席で、お母さんが笑っている。

「すっかり眠り込んでたわね。もうすぐ、駅に着くわよ」
「え、駅……?」
「何年ぶりかなあ。葉子も、久しぶりにみんなに会えて、嬉しいだろう」
お父さんも、にこにこしている。

「久しぶりって……お、おばあちゃんの七回忌は?」
「何、寝ボケてるの。今日、これから本家で、執り行うんでしょ」
「今日……?」
七回忌は、まだ終わってないっていうの?
私は、夢を見ていたとでも?

だけど、あの生々しさ……まるで、予知夢みたいな。
いいえ、まさか!
私に、そんな能力なんてあるわけない。
きゅっと、くちびるを噛んだ。
大丈夫よ。
きっと、みんなの元気な姿に会えるわ。
信じなくちゃ。

大丈夫、きっと大丈夫…………。
胸に渦巻く不安を押し殺すように、私は何度も繰り返してつぶやく。
そして、速度を落とし始めた電車は、ゆっくりと駅舎へ入っていった……。


すべては闇の中に…
              終