晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>V8

「本当に、聞きたくないのよ」
「あっそ、じゃあ勝手にしろよな!
バカ葉子!!」
良夫は怒鳴って、部屋から出て行ってしまった。

もちろん、幽霊も引き連れて。
悪いことしたかしら。
もう少し、他にいい方があったような気がする。
突然、廊下から良夫の悲鳴が聞こえた。
「良夫っ!?」
和子おばさんが飛び出す。

続いて飛び出した私たちが見たものは、倒れている良夫の姿だった。
「良夫! しっかりしなさい、良夫っ!」
和子おばさんが、抱き起こして揺さぶってる。
良夫は白目をむいて、意識がないみたい。

そのとき、ボウッと浮かぶ白い女が、私の方を見た。
そこだけ赤いくちびるが、ハッキリと微笑みを形づくる。
『あれ』は、良夫を殺す気だ!
どんな治療を施しても、絶対に生き延びられないんじゃないかしら。
恐ろしい予感が、氷柱のように私を貫き、凍りつかせる。

みんなは、まだ騒いでいる。
誰かが、救急車を呼びに走っていった。
だけど……無駄なのに。
良夫に寄り添うように立っている、あの白い女がいる限り。
私は、何もできることを思いつかないまま、ただ立ち尽くすしかなかった。


すべては闇の中に…
              終