晦−つきこもり
>七話目(真田泰明)
>A1

「ところで、尾岳冬良はあのドラマ化した小説の続編を、書くつもりだったらしいんだよ」
泰明さんは周囲を見回すようにいった。
「彼の遺品の中に、次回作の構想を書いたメモのようなものを見つけたんだ。

それはあの洋館で生き延びた男が主人公で、今度は自ら恐怖の夜を演出するという内容だった」
彼は顔を上目使いでみんなを見て、呟くように話した。
そしてゆっくり立ち上がる。
うつむきかげんで立つ彼の顔には、何か不気味な笑みを浮かべていた。

(泰明さん………)
私は当惑した。
みんなも泰明さんのその笑みを見たせいか、口を堅く閉ざしている。
多分、あの不気味な笑みに臆したのだろう。
私も何も言葉にすることが出来なかった。
泰明さんはしばらく立ちすくむと、部屋をゆっくり出て行く。

私はまるで何かが起こるのを待つように、その場にジッと座っていた。
みんなも微動だにせずに、その場に座っている。

心の中の不安が徐々に増大していった。
周りの空気は私の肌を突き刺すようですらある。
もう私の精神は限界に達しつつあった。

突然、女の悲鳴が響いた。
(か、母さん………)
お母さんの声だった。
私は強張った体を、力いっぱい動かして振り向いた。
みんなも目を見開いて、ドアの方を見ている。

そして次々と悲鳴が轟いた。
しかしこの部屋のみんなは、誰も動きだそうとはしない。
それはまるで、運命を受け入れるかのようだった。
間もなく、無数に響いていた悲鳴は途絶える。

この部屋に向かい足音が静かに近づいてくる。
それが泰明さんのものだと、誰もが確信しているようだ。

ドアが開いた。
そこには泰明さんが立っている。
私たちはゆっくり立ち上がると、泰明さんを見た。
泰明さんの手には、血が滴っている大型のナイフがある。
そして泰明さんは、ゆっくり部屋の中に入って来た。

泰明さんは、次々とみんなを切り裂き出す。
部屋の中は、徐々に血に染まっていく。
そして私だけが残された。
「泰明さん………」
私はそう呟く。
彼は不気味に微笑み返した。
私の思考は、徐々に麻痺していく。

(あれ、私………)
次に私が意識を取り戻したときは、家の外に立っていた。
空には美しい星空が広がっている。
私は手にナイフを持っているのに気付いた。
そのナイフは血で染まっている。
私は家の方を振り返った。

(や、泰明さん………)
そこには泰明さんが倒れていた。
服は血で染まっている。
それは確認するまでもなく、死んでいるのがわかる程だった。

家は静まり返り、物音一つしない。
遠くからサイレンの音が聞こえる。
私はただ、呆然と立ちすくむだけだった。


      (ノーマルエンド)