晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>G21

「きゃあああっ!!」
避けてもムダだった。
私の手に、ナイフが深々と突き刺された。
手首が切れ、血がどくどくと流れる。
手に、心臓がついているみたい。
気が遠くなる……………………… ………………。

そうして、どのくらいの時間が経ったろう。
私は、ふと目覚めた。
閉じられた扉の隙間から、朝日が差し込んでいる。
……気を失っていたんだわ。
手首からは、まだ少し血が出ていた。
和弘……あの男はいない。

私が死んだと思って、立ち去ったのね。
……家に帰ろう。
それから、今までのことを話すわ。
警察に行ってやる……。
私は、扉に手をかけた。
「……えっ」
開かない。
どうして?

外から、何やら人の声がした。
「このお堂は、呪われている……昨日、人が三人も死んだんだ」
「前田家のだろう? あそこの……正美さんっていったっけな?
かわいそうだったなあ。ずいぶん涙を流して……」

「よし、扉は釘で打ち付けたし、お札も貼った。いいか、村のみんなにいうんだ。ここには二度と近付いちゃならねえってな」
そ、そんな……!
「誰か、誰かーっ!!」
私は、扉を叩いて叫んだ。

「うわっ、中から声がするぞ!」
「呪いだ、近寄るな!!」
せっかく助かったと思ったのに……。
突然、目まいがした。
駄目、もう、何も考えられない。
私は、床に手をついた。

扉の向こうで、人々が次々と立ち去る気配がしていた……。


すべては闇の中に…
              終