晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>H20

嘘よ。
和弘さん、異様な目つきをしてる。
このままここにいたら……きっと殺される!
わからない、わからないけど、そんな気がしてならない。
でも、どうしよう。
あの人、入口に立っているわ。
どうやって逃げろというの?

「葉子ちゃん、どうしたんだい?」
和弘さんが、ゆっくり近付いてきた。
……そうだわ。
このままじっとしていよう。
和弘さんが入口から離れたら……どうにか逃げる!!
私は、懐中電灯を握り締めた。

「葉子ちゃん……」
和弘さんが、あと数歩のところまで近くに来た。
入口からは、結構離れている。
今だわ!!
閉った扉に手をかける。
あ……、開かない……!

「カンがいいな、身の危険を感じたか。でも、俺がそんなにまぬけに見えるか? 鍵ぐらいかけるさ」
「痛……っ!」
あっけなく、腕を捕まれた。
そのまま、扉に押し付けられる。
そこには、金具を引っ掛けるだけの鍵がついていた。

「こんなオモチャのような鍵でも、役に立つもんだな」
和弘さんは、私の首にナイフを振りおろした。
ど、どうして……。
わからないまま、倒れ込む。
和弘さんの肩越しには、たくさんのお札が笑うように揺れていた……。


すべては闇の中に…
              終