晦−つきこもり
>七話目(山崎哲夫)
>C7

「ただ、この家の中に一人だけ残されちゃったみたいで怖かったの……」
どうしようかと迷ったけど……。
心配そうに私を見つめる泰明さんに、嘘はつけなかったの。

みんなは呆れた顔してた。
「いつまでたっても、子供なんだから! くだらないこといってないで早く寝なよ」
とどめは、由香里姉さんのきつーいセリフ。
「はーーーい、水を飲んだらすぐ寝ます……」
私はおとなしく返事をして、とぼとぼと台所へ向かったの。

台所は目と鼻の先……。
ほら、もう着いた。
ここの水って、冷たくって本当においしいのよね。
名水ベスト何とかに選ばれたんだぞ! って良夫が自慢してたっけ……。
自分のことのように得意げだったけど……。
でも、わかる気もするなぁ。

本当に綺麗な水だもの。
冷たいし、おいしいし。
澄んだ透明でガラスのコップに入れると、まるで鏡みたい……。
今だって、私の顔が映ってるわ。

その私の顔の後ろにもう一人……?
振り向いた私の目に映ったのは、ギラリと光る出刃包丁……。
次の瞬間には、その刃が私の首筋を切り裂いていた。
熱い……。
そう感じたわ。
いったい、この人は誰なの?
何でこんなことに……?

かすんでいく私の目に映ったのは、全然見たこともない男の顔。
でも、すぐに視界が赤く染まって……。
私の身体は、その場に崩れるように倒れた…………。

男は、葉子が息をしていないのを確かめると、葉子のパジャマの裾で凶器に付着した血をぬぐった。

「悪く思うなよ。ノコノコこんな夜中に起き出してきた、お前さんが悪いんだからな。この月夜じゃ、警察を撒くのに苦労するからな。明け方まで身を潜めるのに、いい隠れ家を見つけたと思ったのによ……」
葉子は知らなかった……。

連続殺人犯が、一度は逮捕されたものの、警察のスキをついて再び逃走していたということを……。
「仕方ねえ、また山にでも逃げるか……」
男は、吐き捨てるようにそういうと、外へ飛び出していった。

男の去った後には、月の光が葉子の死体を冷たく照らしているだけであった……。


すべては闇の中に…
              終