晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>B8

「……すみません、もう戻りませんか?」
もう帰ろう。
お母さん達に事情を話して抜け出そう。
「葉子ネエ、返事は?」
痛い。
良夫が、私の手を強く握った。

「誰にもいわないよな」
とりあえず、うなずいておく。
「じゃあ、怖い話の続きを聞くよね?」
とてもじゃないけど、そんな気にはなれない。

「……とにかく戻ろう。ここにはいたくないの」
私はどんな顔をしていたんだろう。
良夫の表情が、急に固くなった。
「葉子ネエ、
誰かにバラす気だな?」
ヒヤリとする。

心臓に悪いわ。
もう、なんでもいいから戻りたい。
でも、足が動かない。
……駄目。
「私は黙ってるわ」
由香里姉さんがきっぱりといった。

「そう、あなたは頭がいいわね。
じゃあ由香ちゃん、一緒に戻りましょうね。
でも、葉子ちゃんは黙ってくれないかもしれないから……しばらくここにいてもらうしかないわね」

「かあちゃん! 葉子ネエを殺す気じゃないよな」
「嫌ね、私、葉子ちゃん好きだもの。殺すわけがないわ。
ここに閉じ込めておくだけ。それならいいでしょ?
もちろん、お食事は運ぶし、不自由はさせないつもりよ。

この部屋に、いろんな家具も置くわ。
良夫だって、葉子ちゃんがずっとうちにいてくれたら
嬉しいんじゃない?」
「…………」
良夫は黙っている。
まさか、和子おばさんの案に賛成なの?

「さ、行きましょ」
「ちょっと、待……」
私の目の前で、扉が閉じられた。
鍵が閉まる音。
私は、不用意な一言が原因で、地下室から出られなくなった……。


すべては闇の中に…
              終