晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>H4

「誰かーっ!!」
私は、できる限り大きな声で叫んだ。
「助けて! 助けてっ!!」
「バカ、葉子ネエ、
やめろよっ!」
良夫の手を振り払い、客間に向かって駆け出す。

みんなのところまで行けば、なんとかなるかもしれない。
「葉子!!」
由香里姉さんが追いかけて来る。
「葉子ちゃん、
待ちなさい!!」
和子おばさんが叫んだ。
待てるわけがないわ。

あそこの角を曲れば戻れる。
客間まであと少し……!
ついた!
扉を開け、中に入る。
足がもつれ、床に座り込んだ。

「聞いて! さっきの話、和子おばさん達のことだったのよ!!」
「葉子ちゃん?
どうしたんですの!?」
正美おばさんが、目をまるくして寄って来た。

「とにかく大変なんです!! 今、二人が追って……早く逃げないと。早く!!」
「葉子ちゃん、落ち着いて!
さっきの話って?」
私の肩を揺する泰明さんに、ベビーシッターの話だと叫ぶ。

泰明さんは、私の肩をしっかりと抱いた。
「葉子ちゃん……バカだね」
えっ?
泰明さん?
「由香里に聞いたのか? 知らなきゃ生かしておいたものを」
ええっ?

「そうですわよね。由香里さんも、いきなりあんな話をして……。まあ、葉子ちゃんと由香里さん以外は、みんな儀式に協力していたわけですけど」
正美おばさんは、冷たく笑った。

「いいかい、葉子ちゃん。自分達はな、全員、この家の地下室にあるものの呪いで、事故にあっているんだ。
それを鎮めるために、守り神をたてていたんだよ」
哲夫おじさんの目がすわっている。

地下室?地下室に何があるっていうの?
駄目、そんなこともうわからないかも。
へたをすると、殺されるかもしれない……。

「由香里が逃げたから、別の人間を守り神にたてたんだよ。これで解決したはずだったのに。お前、今の調子じゃ絶対誰かにバラすだろ? 困るんだよなあ」
いつもの泰明さんじゃない。
これは現実なの?
泰明さんの手が延びてきた。
私の首に絡み付く。

逃げられない……。
「葉子ちゃん!!
……ごめんなさい」
和子おばさんの声。
もう息ができない。
「葉子ネエ……」
最期に、良夫の悲しげな声が聞こえた気がした。


すべては闇の中に…
              終