晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>J5

「和子おばさん、もう怖い話はやめませんか?」
「えっ、どうして?」
「さっき、本当に良夫は首を絞められたんです。このままだと、きっとまた何かが起こる気がして」

「ええっ、本当なの?」
和子おばさんは、良夫の首を調べた。
「……赤くなっているわね。わかったわ、もう怪談はやめましょう。
ちょっと、みんなに声をかけてくるわね……」

「あっ、待ってください、私達も一緒に……」
和子おばさんは、一人で慌てて行ってしまった。
「あああーーーっ!!」
客間のほうから、突然叫び声が響いた。
「かあちゃん!?」
和子おばさんの悲鳴だ。

良夫と、客間に駆け込む。
部屋の中は、ひどいありさまだった。
正美おばさん、哲夫おじさん、泰明さんが倒れている。
体中の骨が折れているように、ぐにゃぐにゃになった格好で死んでいた。

その中心で、由香里姉さんが微笑んでいる。
「だって、みんなで私のこと、ゆっちゃんだっていって、いじめたんだもの」
由香里姉さんは、私達に手を差し伸べた。
「由香ちゃん、やめて」
和子おばさんが震える。

「私、死んでないよね。こうして喋れるもんね。ほら、手をのばせば誰にでも触れるよ。だから私、死んでないよね」
「うわあああっ!!」
良夫が叫ぶ。
首を押さえて苦しんでいる。

「ほうら、手を延ばせば届くのよ」
由香里姉さんは、良夫まで手を延ばしてはいなかった。
何か、目に見えない力で良夫の首を絞めているようだった。

「やめなさい!!」
由香里姉さんに向かっていった和子おばさんが、壁に叩き付けられた。
「うぐっ……」
殺される。
私は、その場をうごけなかった。

足が震えて、一歩も進めない。
良夫と和子おばさんが、床に倒れ込んだ。
「さあ、次は葉子ね」
由香里姉さんの声と同時に、見えない力が私の襟首を掴んだ……。


すべては闇の中に…
              終