晦−つきこもり
>七話目(山崎哲夫)
>A3

やっぱり、私だけ話さないってわけにはいかないよね。
ここは覚悟を決めて、怖い話をしよう!
良夫だって話したんだもの。
私にだってできるわよ。
「じゃあ、最後に私の話を…………」
……って、私がいいかけた時!

「うおっ! 何だこりゃ!?」
突然、良夫がすっとんきょーな声を上げたの。
良夫ったら、幾つかの石を並べて遊んでるのよ!
もう、人の話を聞いてないんだから!!
あんたとは、もう一生話したくない。

それくらい怒ってるのよ、わかってる?
ところが……。
「葉子ネエ! おい、見てみろよ。大発見だぜ」
そういって良夫は、私の腕をグイグイ引っ張るの。
……駄目だ。
全然わかってないわ。

「もう、うるさいなぁ。何が大発見なの?」
しかたなく、良夫の指差す方を見ると……。
そこには、良夫の持っていた石と、哲夫おじさんの持っていた石とが、ピッタリとくっつく形で並んでいたの。

割れたお皿の破片と破片を、くっつけたような感覚っていうのかなぁ。
組み立て中の立体のパズルって感じ。

「な、これってすごいころだろ?
俺って、すごい奴だよな!?」
良夫の奴、いかにも誉めて欲しそうに『すごい』を連発してるな。
そうはいかないよ。
「なーんだ、そんなこと」
……私は、全然興味ないフリをしたの。

内心は違ったんだけどね……。
ここで良夫を誉めると、ますます生意気になっちゃうもの。
そうそう、甘い言葉はかけてられない。
「チェッ……」
良夫は、期待外れって感じで、小さく舌打ちしたわ。
でも、本当に不思議なことよね。

良夫の友達の靴の中にあった石と、哲夫おじさんがジャングルから持ち帰った石とがピッタリとくっつくなんて……。
そう思ったのは、泰明さんも同じだったみたい。
泰明さんは、良夫の前にあった二つの石を丹念に観察し、自分の持っていた石と何度も見比べてた。

そして、畳の上に二つの石を置き……、
「どうやら、俺の石もくっつきそうだ」
……って、泰明さんの持っていた石を並べたの。
泰明さんの石は、良夫の持っていた石にピッタリとくっついてる。

「私の石も、同じ物のようですわね」
そういって正美おばさんも石を並べたわ。
「あら。じゃあ私の石も、お仲間に入れてもらえるかしら?」
和子おばさんは、仏壇から石を取り出すと、置く場所をあれこれと悩んでた。

けっきょく、その石は、良夫の石を挟んで、ちょうど泰明さんの石と対称の位置に収まったの。
「ほーら、ピッタリよ」
和子おばさんたら、なんだか楽しそう。

「これで、五つの石がくっついたことになるな」
「残るは……」
みんなの目が、いっせいに由香里姉さんに向けられる。
「由香里ネエも、さっさと出せよ」
良夫にせっつかれて、由香里姉さんもしぶしぶ自分の石を置く。

……こうして、部屋の中央に六つの石が並べられたの。
和子おばさんの話に出た、伊佐男さんの眉間を打ったという石……。
持ち主が次々と死んでいく、正美おばさんの石……。
泰明さんの持っていた、スクープに恵まれるっていう石……。

由香里姉さんが、占師からもらった御守り袋に入ってた石……。
そして良夫の石と、哲夫おじさんの石……。
みんなが持っていた石が、ピッタリとくっついてる。
「驚いたな、元は一つの石だったってことか……?」
ううん、それだけじゃないわ。

その形が…………。
「おいっ! これ、人形だぞ……!!」
そう! みんなの持ってた石をくっつけると、一体の人形になったの。
石を彫刻してできた人形。

パッと見ただけなら観光地の民芸品か、街の路上で売ってるアクセサリーって感じなんだけど……。
この人形って、何のために作られた物なのか……?
みんな、それぞれなりに考えをめぐらせてたみたい。
しばらくたった時……。

「私たちってさぁ、石に利用されたんじゃん……?」
そういったのは由香里姉さんだった。
「そうですわね。入手方法も入手場所も全然違う石が、実は同じ人形の破片で、しかもそれが一つも欠けることなく、そろってしまうなんて……。普通じゃちょっと考えられませんわ」

「すると、何かい? 俺たちは、この人形の意志か何かに操られて、破片である石を手に入れ、ここに集まった……。そう、いうのかい? ははっ」
泰明さんは必死に笑顔を作ろうとしてるけど、やっぱりどこかぎこちない。

「もしかすると、人形が選んだのかもしれないわね。バラバラになった自分の身体をそろえてくれる持ち主を……」
そういって、みんなは石でできた人形を、代わりばんこに手にとってはしげしげと見つめてる。

そして、石人形が哲夫おじさんの手に渡った時に、異変が起こったの。
哲夫おじさんたら、その人形をしっかりと抱きしめて、
「うーーーん、かわいいなぁ。このお人形さんは……」
…………だって。
そればかりか、頬擦りまでしちゃって……。

不思議な人……。
みんなも、呆気にとられて哲夫おじさんを見てる。

するとね……。
突然、その石人形から女の子が現れたの。
女の子の幽霊っていうのが正しいのよね。
白い洋服を着た、きれいな女の子の霊……。
その霊は何をするでもなく、ただじっと立ってるだけ……。

ちょっとうつむいた顔が、ひどくせつない。
そのせいかしら?
不思議と怖いって感じはしないの。
良夫は、けっこう怖がってたみたいだけどね。
でも、私たちの中で一番幽霊に見とれてたのは、やっぱり哲夫おじさんよ。

うっとりとした眼差し。
ポカーンと開いた口。
私の気のせいかも知れないけど、頬が少し赤くなってるみたい……。
「…………!!」
でもね。
哲夫おじさんたら、突然、思い立ったように立ち上がると、部屋を飛び出して行っちゃった。

……と思ったら、すぐに戻っていた。
何してるのかしら……?
あ、哲夫おじさんたら、手に花なんか握っちゃってる……。
「あらぁ、哲夫さん、それお義母さんの位牌の前に供えてあったやつでしょ」
「あーーーっ、本当だ!」

「いけないんだぁ……」
みんなのいう通りだわ。
仏間の菊の花を盗ったりしたら、罰が当たっちゃうよ。
……でも、そんな私たちの言葉も、哲夫おじさんの耳には全然届いてなかったの。
哲夫おじさんは、女の子の幽霊の前に立つと、手に持った菊の花を差し出したわ。

そして……、
「じ、自分は……あの、その…………」
哲夫おじさんたら、顔、真っ赤にしちゃって……。
……かわいい!
だけどね、女の子の幽霊は、ちらっと哲夫おじさんを見ただけ。

またすぐに、うつむいてしまったの。
そして、空気に溶け込むように消えちゃった……。

後に残されたのは、石人形だけ。
出会いから失恋までを、ほんの数分間で体験しちゃった哲夫おじさんは、前以上に冒険に出掛けることが多くなったみたい。

この前届いた手紙には、
『やはりこの大自然こそ、自分の一生の恋人だ! がっはっはっはっは』
……なーんて書いてあった。
でもね、私、ちゃーんと細かいとこまで見てるんだから。

同封されてた写真の、哲夫おじさんの胸ポケットには、あの石人形がちゃーんと入ってたもの。
あれから、彼女の幽霊が現れたかどうかはわからないけど、哲夫おじさんが幸せならそれでいいか……。
でも、プレゼントのお花ぐらい自分で用意してね。

女心は山の天気より複雑なんだから……。


      (ノーマルエンド)