晦−つきこもり
>七話目(山崎哲夫)
>H4

こういう時には、怒るのが一番ね。
大きく息を吸って、せーーーのっ!

「みんなして、グルになってるんでしょ! 私だけ仲間はずれにして、怖がらせて楽しんでるんだわ!!
か弱い女の子を脅かしていいと思ってるの!? そんなことして楽しいの? ひどいわ、ひどいわ、ひどいわーーー!!」
………………どうかしら?

ちょっとは効き目あったでしょ?
『ごめんよ、葉子ちゃん』って謝る気になった?
ほら、私、涙まで浮かべてるんだよ。
ねぇ、みんな…………?
「葉子ちゃん……」
……何? 泰明さん。

「そんなこと考えてて楽しいかい?
そんなの、俺の知ってる葉子ちゃんじゃない」
……ええっ!?
「そうだよ。葉子は、そんなくだらないことを疑ったりしない素直な子だもん」

「そうよねぇ……。由香里ちゃんならともかく、葉子ちゃんは、もっと人を信じることができる子よ」
「私も、そう思いますわ」
……ちょっと!
ちょっと、待ってよ!!

「こんな奴、俺、大っ嫌いだ!」
……良夫までそんなこといって……!!
私が途方にくれた、その時……!!

「みんな、何てことをいうんだっ!」
哲夫おじさんが、拳を握り締めながらみんなをじっと見つめていたの。

「みんな……。少し落ち着いて、自分の意見も聞いてくれ……。
みんなは、葉子ちゃんのことが好きなんだ。そうだろう? もちろん、自分だって大好きだ。葉子ちゃんにだったら、『二代目・山崎哲夫』の名を継がせてもいい……、いや、ぜひ継いでもらいたいと思うぐらいに、自分は葉子ちゃんが好きだ」

……哲夫おじさん…………。
切々と語る哲夫おじさんの目には、溢れそうな涙が……。
……そんなにまで、私のことを思ってくれていたの?

「だが、みんなは……。みんなは、ここにいる葉子ちゃんが、本物の葉子ちゃんじゃないと疑い始めてる。そうだろう!?」
哲夫おじさんの鋭い声に、みんなは黙って下を向いちゃった。
私は……。
哲夫おじさんの言葉に、思わずうっとりしちゃってたわ。

「実はな………………」
「哲夫おじさん、私……」
「自分も、みんなと同じ意見なんだ!」
……………………………………… ……………………………………… ……………………………………… …………………………………え!?

「これで、ここにいる全員が、本物の葉子ちゃんじゃないと認めたことになるな」
哲夫おじさんまで、何をいいだすの!?
「よーし、こいつは葉子ネエの偽者に決定だ!」
「やめてよ! 私は本物だってば!!」

「葉子ちゃん? あなたがいくら反対しても無駄ですわよ。あなたは一人、こちらは六人ですもの。
この世の中では、数の多い方が正しいというのがルールでしょう?」
……そんなっ!
じゃあ、私にどうしろっていうの!?

「本物の葉子ネエじゃないんなら、ここにいるのは変だぜ」
「そうねぇ……。じゃあ、消えてもらいましょう」
「そうだな。それが一番いい」
そういって、哲夫おじさんはギラリと光るナイフを取り出した。
次の瞬間、私は、そのナイフに首を切り裂かれていたわ。

痛みはなかった……。
一瞬、熱いと感じただけ……。
その後はもう何もなかったの…………。


すべては闇の中に…
              終