晦−つきこもり
>七話目(山崎哲夫)
>J3

こういう時には、怒るのが一番ね。
大きく息を吸って、せーーーのっ!

「みんなして、グルになってるんでしょ! 私だけ仲間はずれにして、怖がらせて楽しんでるんだわ!!
か弱い女の子を脅かしていいと思ってるの!? そんなことして楽しいの? ひどいわ、ひどいわ、ひどいわーーー!!」
………………どうかしら?

ちょっとは効き目あったでしょ?
『ごめんよ、葉子ちゃん』って謝る気になった?
ほら、私、涙まで浮かべてるんだよ。
ねぇ、みんな…………?
「葉子ちゃん……」
……何? 泰明さん。

「そんなこと考えてて楽しいかい?
そんなの、俺の知ってる葉子ちゃんじゃない」
……ええっ!?
「そうだよ。葉子は、そんなくだらないことを疑ったりしない素直な子だもん」

「そうよねぇ……。由香里ちゃんならともかく、葉子ちゃんは、もっと人を信じることができる子よ」
「私も、そう思いますわ」
……ちょっと!
ちょっと、待ってよ!!

「こんな奴、俺、大っ嫌いだ!」
……良夫までそんなこといって……!!
私が途方にくれた、その時……!!

「ちょっと、あんた!」
私はビクッとして、声のした方を見た。
「あんた、今、何ていった!?」
由香里姉さんがものすごい形相で、和子おばさんに食って掛かってる。

「由香里ちゃんならともかく……だってぇ!? あんた、人のこと何だと思ってんの」
「あらぁ、わからない? 葉子ちゃんと違って、疑り深い人だと思ってるわ」
ちょ、ちょっと二人ともどうしちゃったの?
目付きが険しくなって、二人の方こそ別人みたいよ。

由香里姉さんと、和子おばさんの言い争いは激しくなるばかり……。
すると今度は、
「うるせーんだよ、二人とも!」
って、泰明さんが声を荒げたの。

その声で、由香里姉さんも和子おばさんもおとなしくなったわ。
でも……。
ギラギラと目を光らせて、お互いを睨み合ってるの。
ううん、この二人だけじゃない。
泰明さんも……。
哲夫おじさんも……。

正美おばさんも……。
良夫も……。
みんなが目を光らせてるの。
少しでも変な行動に出たら、速攻で飛び掛かってやる!
……そんな雰囲気。
見えない火花が、バチバチと音をたててる……。
そう思った時……。

私には、みんなの背後にうごめく黒い影がはっきりと見えたわ。
疑心暗鬼という名の、恐ろしい影……。
その影は、みんなの憎しみと猜疑心をエサに成長してるのか、あっという間に部屋中に広がったの。

その瞬間から、私の心はある感情でいっぱいになった。
(こんな人たち……、絶対に信用できないわ!!
いつも、私ばっかりからかって楽しんでるんだから。
絶対に許さない!
いつか殺してやる……!!)


      (ノーマルエンド)