晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>C4

そうでしょう。
変だと思ったのですわ。
確か園部さんは、屋上から落ちたんでしたわね。
だとすると、私の知っている患者さんではないかしら。

何ヵ月か前に、うちの病院にやってきた、あの少女……。
彼女も、園部さんという名前だったはずです。
私が聞いた話では、どこか高いところから落ちて、怪我をしたということでした。

幸い、大事には至らなかったのですが、本人のショックが大きいということで、設備の整ったうちへ転院なさったのですわ。
ああ、でも……良夫君の話には、だいぶ誤解があるようですわよ。
まだ小学生ですものね、しょうがないのかしら。

私がこれから、本当の園部さんについて、話して差し上げますわ。
運び込まれた園部さんは、痛々しいくらい沈み込んでいました。
これは、怪我のせいだけではない…………私には、そうピンときましたわ。

それで、できるだけ彼女の話し相手になって、気を引き立ててあげるようにしましたの。
そのせいか、彼女は私に心を開いてくれたようでした。
そして、実は自分には、秘密があるといいだしたのですわ。
……彼女は、小さな頃からいつも、いっしょに生きてきた姉妹がいるのですって。

いいえ、正確にいうならば、彼女しか知らない、彼女の中にいる姉妹が。
心理学は専門外なのですけれど……そういう人たちがいるというのは、聞いたことがありますわ。
つまり園部さんの中に、本人以外の人格が存在している……とでもいうのでしょうか。

彼女の話だと、もう一人の人格は、とても気が強くてわがままだったそうですの。
それでも、彼女……いえ、彼女たちは、うまくやっていたのですって。
そう、お父さまの転勤で、引っ越しをする前までは。

転校した新しい学校で、園部さんは一人の少年に会ったそうですの。
彼は、珍しがって近寄ってくるクラスメイトから離れて、遠くから園部さんを見つめていたそうです。
それを気にしているうちに、彼女は彼を好きになってしまったんですって。

ねえ、葉子ちゃん。
園部さんがいっていたのが誰のことか、見当がつきますか?
1.つく
2.つかない