晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>E10

まあ、わかってくださらないんですのね。
私は看護婦として、生きたいという気持ちを、尊重する義務があるのです。
ただ……それでも、肝心の肉体が使えなくなっては、仕方ありませんわね。
だから私は、ある方法を思いついたのです。

それは…………。
カタン。
不意に乾いた音がして、話を途切れさせた。
さっき、ふすまが開いてるのには気づいたんだけど……やっぱり、気のせいじゃなくて何かいるの!?
ところが、正美おばさんが立ち上がって、ふすまを開けると。

……そこには、フランス人形が立っていた。
部屋に入ったときには、そんな物なかったはずよ。
いつの間に……。
「駄目な子ね。部屋で待っていなさいって、いったでしょう」
正美おばさんは、小さな子をあやすような口調でいいながら、人形を抱き上げた。

「この子を、部屋に戻してきますわ」
まるで、本当に生きている人間みたいに扱ってる。
おばさんって、そんな少女趣味だったかしら?
……私の心を読んだように、おばさんが振り向いた。

「さっきいった方法ですけれどね、魂って、器がありさえすれば長持ちするものですのよ……うふふ」
一瞬、人形の瞳が私を見た…………ような気がした。
でも、まさか。
まさか、人形が一人で歩いてくるはずがないわ。

人形の中に、女の子の魂が入っているなんて、そんな馬鹿なこと……。
きっと、おばさんが私たちを驚かせようとしたのよ。
そうに決まってる。
次の話を聞かなくちゃ。
おばさんは、すぐに帰ってきた。

「ごめんなさいね、みなさん……」
いいかける言葉にかぶせるように、私はあわてて大きな声を出した。
「さあ、次の話だわ!」


       (六話目に続く)