晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>J7

あら、違いますわ。
そんなことではありません。
好きな男の子に、現場を見られてしまったのですわ。

駆けつけた少年に驚いて、ミドリちゃんは園部さんと入れ替わってしまいました。
園部さんはパニックを起こしましたわ。
大好きな可愛い小鳥たちが、ミドリちゃんのせいとはいえ、自分の手で死んでしまったのですものね。

「小鳥が……小鳥たちが……」
そういって、泣き出してしまったそうなんです。
少年は驚いたようですが、彼女の側にただ、黙って立っていてくれたそうですわ。
それでよけいに、園部さんは彼への想いを募らせたのでしょう。

でも、それを黙って見ているミドリちゃんではありません。
一旦引っ込んだものの、またしても園部さんからイニシアチブを奪ったのですわ。
そして次の日も、学校のペットを狙って、放課後に行ったのです。
番犬として飼っている、大きな犬といっしょにね。

園部さんの体を借りたミドリちゃんは、ウサギの小屋の中に、犬を放しました。
興奮した犬は、ウサギたちをかみ殺し…………。
ハッと気づいたとき、そこには例の少年が立っていたのです。
きっと、彼女をつけてきたのでしょう。

園部さんは、絶望と恥ずかしさで気が遠くなりそうだったといいます。
けれど、ミドリちゃんはニヤリと笑ったのです。
くちびるが動き、園部さんが思ってもいない言葉が、口をついて出ます。

「……見たわね…………」
ミドリちゃんの心が読める園部さんは、心臓をつかまれたような思いでしたわ。
ミドリちゃんの力で、園部さんの片手がまっすぐに、少年を指差しました。
一声吠えて、犬が駆け出しましたわ。

血の混じったよだれを垂らしながら、少年めがけて走って行くのです。
後ろを向いて走り出した少年を、猛烈な勢いで追いかけて。
園部さんは、全力を込めてイニシアチブを取り戻そうとしました。
このままでは、あの少年が引き裂かれてしまう!

どんどん距離が縮まって、もう少しで追いつかれてしまいそうです。
そして。
「わあっ」
という叫び声とともに、少年がひっくり返りました。
犬の牙が、シャツのすそを捕まえたのです。

バランスを崩して転んだ少年に、太い牙が襲いかかります。
「やめなさい!!」
その瞬間、園部さんの体の自由が利くようになったのです。
彼女はあわてて、犬を呼び戻しましたわ。
少年は起きてきません。
どうやら、頭を打って気絶したようです。

本当は介抱したかったでしょうけれど、彼女は急いで帰ったのですわ。
だって、やっと体を動かせるようになったと思ったら、服や顔に血がついているのですもの。
ミドリちゃんが犬に襲わせた、ウサギたちの返り血ですわね。
そんな格好で、外にいるわけにはいきませんもの。

でも……葉子ちゃん。
ここまでの話を聞いて、その少年が誰だか、見当がついたのじゃありません?
1.ついたと思う
2.全然わからない