晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>C5

私は良夫の肩をつかんで、そっと揺すってみた。
突然カッと、良夫の目が開いた!
私を見つめてる。
「わかったよ。これを殺せばいいんだね」
無邪気な顔でニコッと笑うと、私の首に手を伸ばしてきた!?
細い腕からは考えられない力で、グイグイと絞め上げてくる。

息ができない!
気が……遠くなる。
「良夫っ!」
「葉子ちゃん!」
割って入った和子おばさんや、哲夫おじさんが、私たちを引き離した。
私は急いで、新鮮な空気を思う存分吸う。

良夫は、ビックリしたように、部屋の中を見回してる。
「あれっ? 俺……どうしちゃったわけ?」
…………なんなの、これ?
あんなことをしておいて、覚えてないっていうの!?

「催眠中に、不用意なことをするからですわ。さあ、次の話へ行きましょう」
正美おばさんが、冷静にいう。
それじゃ、まるで私が悪いみたいじゃないの。
それに、今の話の続きは……。

「何度も続けて、催眠術をかけるのは、よくないですわ。今日のところは、これで止めた方がいいのです」
正美おばさんの、きっぱりした答え。
……しょうがないわね。
もしかしたら、良夫の子守って、由香里姉さんじゃないかと思ったんだけど。

でも、それだと姉さんのいってた子供が、良夫ってことになるわ。
姉さんの話の舞台が、この本家だなんて……。
考えただけでも、ゾッとする。
最後まで聞かなくて、かえってよかったのかも。
さあ、次の話を聞きましょう。


       (四話目に続く)