晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>G7

……葉子ネエの声が聞こえる。
そういえば、あの頃は葉子ネエもいたんだよな。
確か、葉子ネエの父ちゃんが入院して、母ちゃんが看病してる間だった。
三人で、いろいろ遊んだなあ。
一番面白かったのは…………ああ、そうだ。

うちにはトモさんって男の人がいた。
トモさんのホントの名前は知らないけど、離れに住んでて、庭の手入れとかしてもらってたと思うよ。
俺たちトモさんが嫌いだった。
だって、いつも遊びの邪魔するんだもん。

子犬をヒモで縛って、川に流そうとしてたら、見つかっちゃったんだよな。
ものすごく怒られたんだ。
それから、俺たちの後ついてくるようになってさ。
あんなんじゃあ、遊べないじゃん。
だから、倉におびき寄せたんだよ。

俺が中で泣きマネして、トモさんが入ってきたら、足の間すり抜けて逃げる。
そうして、閉じ込めちゃおうと思ったんだ。
思った通り、トモさんは簡単に引っかかってくれたよ。
掛けがねは重かったけど、三人だったから、なんとかかけられた。

だけど、困ったことが持ち上がったんだ。
倉の扉を、中からガンガン叩く音がするんだよ。
これじゃあ、誰か大人に見つかっちゃう。
出してもらったら、またトモさんは、俺たちを怒るよ。
ぶっ飛ばされちゃうかもしれない。

どうしようって思ってたら、子守のヤツがいったんだ。
火をつけちゃおうよ……って。
家の裏から灯油持ってきて、父ちゃんのタバコ盆からマッチを取ってきた。
倉は、あっけないくらい簡単に燃えたよ。

ゴーゴーいう炎の音がものすごくて、トモさんの声なんか聞こえなくなった。
俺たちは、何だか楽しくなって、まわりで飛び跳ねてたんだ。
キャンプファイヤーみたいだって、葉子ネエがいったよ。
俺は知らなかったけど、きっと面白いものなんだろうなって、思った。

ああ、そうだ。
倉の横んとこに、小さな窓があったんだよね。
鉄格子が、十五センチ間隔くらいではまってたんだけど、トモさんはそこから手を伸ばしてたっけ。
「しつっこいなあ」
っていって、その手をけっ飛ばしたのは…………そうだ、葉子ネエだったよね。

「嘘よっ!!」
私は、耐えきれなくなって叫んだ。
「私、全然覚えないもの。そんなの嘘に決まってる!」
「葉子ちゃん!」
良夫につかみかかろうとした私を、泰明さんが止めた。
だけど、こんな馬鹿なことってないわ。

私が、良夫といっしょに動物を殺したですって?
小さい頃、本家に預けられてたですって?
よくも、そんな……。
「あの頃、倉の火事は本当にあったんだよ」
…………そのとき、和子おばさんが口を開いた。

「トモさんって、うちで働いてくれてた人が、焼け死んだのも本当。なんで、あんなとこから火が出たのか、不思議だったんだけど……」
「ちょ、ちょっと待って! たとえ火事が本当でも、私は……」
和子おばさんが、正面から私を見据えた。

なぜだか、心臓がどきんと高鳴る。
「葉子ちゃん、本気でいってるの?
ちょうど火事があった頃、うちで葉子ちゃんを預かってたじゃないのよ」
そんな……馬鹿な。
それじゃあ、私は本当に、良夫のいったとおり……。
こんなことってあるの?

私は何も覚えていないのに……。
「子守を頼んでたのは、近所の子だったんだけどね。その火事の後、しばらくしたら、いなくなっちゃったのよ……」
……和子おばさんは、まだ話し続けてる。
だけど、私の耳には入ってこない。
これは本当に現実なの?

私は……私は…………。
1.まだ、怖い話を続けてもらう
2.もうやめる