学校であった怖い話
>一話目(新堂誠)
>M4

何も起きなかった……か。
実際そうなら、どんなによかったろうな。
俺が息をひそめて見つめていると

「僕の顔が映ってる」
突然、吉岡がそんなことを言いだしたんだ。
「当たり前だろ。鏡なんだから、お前の顔が映るのは当たり前じゃないか」
何を言い出すのかと思って、俺はびっくりしたよ。
鏡には、あいつの顔が映っているだけだったしな。

「違うよ。僕の顔が紫色なんだ。僕は、あの本で読んだことがあるよ。鏡に映った自分の顔が紫色だったら、それはもうすぐ自分が死ぬ証拠だって。そして、その紫色の顔が、自分の死ぬときの顔なんだって」
あいつの声は震えていた。

「馬鹿言うなよ」
俺は、もう一度、鏡を見たよ。
鏡には確かに吉岡の顔が……。

「あっ」
俺は、思わず叫んじまった。
今まで普通に吉岡の顔が映っていたはずなのに、いつの間にか鏡の中の顔が紫色になってるじゃないか。
それも、普通の顔じゃないんだ。
なんて言うか、むくんでいるというか、蝋人形のような顔というか、とにかく普通じゃないんだよ。

俺は、驚いて走り出したよ。
どうやって、真っ暗な旧校舎から出てきたのか全く覚えていない。
でも、俺は出てきたんだ。
たった一人吉岡を残してな。
覚えていることっていったら、後ろで
「おいてかないでくれーっ!」
って、吉岡が叫んでいたことぐらいだな。

それでも、俺は吉岡を助けに戻ろうなんて思わなかったね。
いくら俺でも、もうあそこには戻りたくない。
それでも、怖いのを我慢して俺はしばらく正門の前で待ったんだ。
けれど、いつまでたってもあいつは出てこない。
もしかしたら、裏門から帰ってしまったのかと思って、俺も帰ったよ。
家に帰ったのはもう朝方近かったし、少しも眠れなかった。

そして、そのまま家で朝食をすませると、俺は学校に行ったんだ。
そして、知った。
吉岡が死んだことをね。
朝早く、見回りの先生が見つけたそうだ。
吉岡は、旧校舎の前で死んでいたそうだよ。

俺は知らない。
あいつが、どうやって旧校舎から出てきたのか、それとも鏡の前で死んだ吉岡を誰かが旧校舎の前まで運んだのか。
俺は、まったく知らないよ。
ただ、吉岡は右手にしっかりと化粧鏡を持っていたそうだ。
メチャメチャに割れた
化粧鏡をね。

……次の日、俺は吉岡のお通夜に行くことになった。
クラスメートだったからな。
全員で行ったのさ。
別に仲もよくない仲間だったけれど、死んだら悲しいんだろうな。

女子なんか、みんな泣いてたよ。
その時、俺は見ちまったんだよ。
棺の中の吉岡の顔をさ。

俺は、場所もわきまえず叫んじまった。
だって、仕方なかったんだ。
棺の中には、俺が見た、あの鏡に映った吉岡の顔があったんだよ。

その時、俺の錯覚かもしれないけれど、あいつの目が一瞬、開いたんだ。
そして、俺のことをじろっと睨んだんだ。
どうして、あのとき助けてくれなかったんだ。
どうして、自分だけ逃げたんだ。
そう訴えているような目だったよ。

それからさ。
俺に、不思議な能力が備わったのは。
吉岡を見捨てて逃げた呪いなのかもしれない。
それとも、俺はもう霊界の住人になってしまったのかもしれない。

俺ね、もうすぐ死にそうな奴がわかるんだよ。
見ず知らずの奴だって、テレビに映っている奴の顔でだってわかるんだぜ。
もうすぐ死にそうな奴を見ると、そいつの顔が紫色に映るんだよ。
すると、そいつは死んじまうんだ。

……そうだ。
お前の顔、見てやろうか?
坂上っていったよな?
お前の顔、今どんな風に見えるか、教えてやろうか?
どうして俺がこんなこと聞くか、怖いか?

教えてやってもいいぞ。
聞きたいか?
1.教えて欲しい
2.教えて欲しくない