学校であった怖い話
>一話目(新堂誠)
>N3

そうなんだよ。
あいつ、突然あの鏡のことを話し始めたんだ。
突然、あやしい古ぼけた一冊の本を取り出してさ。
それを俺に見せるんだよな。

その本に、一枚の鏡の写真が載っててさ。
何でも、霊界につながる魔法の鏡なんだとよ。
「この本に載ってる鏡、見たことあると思わない?
これって、旧校舎の踊り場にある鏡と同じだよね」

突然、そんなことを言い出すんだよ。俺は笑っちゃったよ。
そんなの、どこにでもある普通の鏡じゃないか。

その本に載っている鏡だって、踊り場にある鏡だって、どこにでも売っている何の変哲もない普通の鏡さ。
特別な飾りがあるわけでもないし、いかにも安っぽそうだしさ。

ところが、吉岡の奴、大まじめで言うんだよ。
「僕にはわかる。この鏡は、間違いなくあの踊り場の鏡だよ。そして、この世と霊界をつないでいるんだ」
ってね。

俺は、吹き出しちまってさあ。
いい加減にしてくれって、相手にしなかったのさ。
当然だろ?
そしたらさあ、あいつ、突然怒りだしちゃってよお。

「僕の話を信じないのか! 僕にはわかるんだ! あの鏡は、霊界に通じているんだ!」
そう言って、顔を真っ赤にして震えてんだ。

驚いたのは俺のほうさ。
俺は、何もそこまで怒ることないって、なだめたぐらいさ。
そしたらさあ、あいつ、
一緒にあの鏡を見に行こうって言うんだよ。
今の話が本当だってことを証明してみせるってな。

あんまり、むきになって言うもんだから、俺も
「おう、いいぜ」
って、うなずいちまったのさ。

それで俺が行こうとすると、あいつとめるんだよな。
「今はだめだよ。夜中の三時三十三分三十三秒じゃないと、証明できないんだ。その時間じゃないと、霊界への扉は開かないからね」
なんて、とぼけたことを言い出すんだぜ。

さすがの俺もあきてちゃってさあ。
それ以上、相手にしなかったんだ。
それきり、あいつも話しかけてくることなかったしな。

ところが、どうだ。
それから三日後のこと、いきなり吉岡は俺のところに来て、
「今日はすごく霊気が強い日だね。こういう日は、絶対に成功するよ。証明してあげるからね」
って、突然言い出したんだ。

それも、真剣な顔でだぜ。
最初、俺は何のことを言ってるんだかわからないで、きょとんとしてた。
まさか、あの鏡のことだなんて、一瞬、考えちまったよ。

それで、その日の夜中、学校に忍び込もうって誘うんだ。
おとなしい顔して、大胆な奴だよな。
俺だって、夜中の学校になんか来たことないぜ。
まあ冗談だろうと思って、軽い気持ちで返事したのさ。

「ああ、いいよ。夜中の三時に、校門の前で待ってるぜ」
ってね。
あいつ、嬉しそうにニタニタ笑ってたなあ。
そういえば、あいつの笑った顔っていうのも、あの時初めてみた気がするよ。
最初で最後の、あいつの笑顔さ。

それで、学校が終わって家に帰って、しばらくの間、俺はその話を忘れてた。
夜中になって、そろそろ寝ようかなって思ったときに、ふと吉岡の顔を思い出しちゃったんだよな。

時計を見ると、夜中の二時。
行こうと思えば、まだ約束に間に合う時間さ。
あいつのニタニタ笑う顔を思い出すと、何だか寝つけなくってさあ。
けれども、今から学校に行くのなんて面倒臭いし。
それに、もしあいつが来てなかったら、馬鹿をみるのは俺だしな。

行くべきか、行かないべきか、俺は悩んだよ。
結局、どうしたと思う?
1.学校に行った
2.学校に行かなかった