学校であった怖い話
>一話目(岩下明美)
>A6

「僕はいじめてなんかいない! 君は勘違いしているよ!」
僕は、無我夢中で叫んだ。
何だか、岩下さんの顔がとても怖かった。
まるで、何かに取りつかれているような……。

どうして、岩下さんが内山君の話をするのかわからない。
確かに、僕のクラスに内山君といういじめられっ子がいた。
そして、彼は三週間ほど前に辞めていた。
でも、僕は彼のことをいじめたりなんかしなかった。

「うそおっしゃい! お前がいじめたんだ!
お前が、浩太を殺したんだ!」
いつの間にか、彼女の手にはカッターが握られていた。
キチキチキチと虫の鳴くような音がして、カッターの刃が目いっぱい押し出された。

彼女は真っ赤な舌を覗かせると、その刃を押しつけベロリとなめあげた。
赤い舌に、より赤い一筋の血がにじんでいた。
彼女は笑っていた。
僕は、足がすくんで動けなかった。

彼女は、勘違いしている。
僕が、内山君をいじめた張本人だと勘違いしている。
「僕じゃない! 本当に僕は関係ないんだ!」
僕は叫んだ。
でも、僕の叫びは彼女の耳には入っていないようだった。

「お前だ! お前が、浩太を殺したんだ!」
殺される!
彼女は、手にしたカッターを大きく振り上げた。
そして……。

僕は、そのまま意識が遠のいていった。
「大丈夫か? しっかりしろよ」
どれほどの時間が流れただろう。
僕は、ゆっくりと目を開けた。

僕の視界に、心配そうに覗き込む五人の顔が映し出された。
どうやら、助かったようだ。
「僕は……? 岩下さんは……?」
岩下さんの顔が見えない。
僕は、まだぐらつく頭をゆっくりと起こし、辺りを見回した。

「彼女は僕たちで取り押さえたよ。ずいぶんと興奮していた。止めるのがもう少し遅かったら、君は間違いなくカッターの餌食になっていただろうね」
次第に、生きているという実感が全身に伝わってきた。
心臓の鼓動はまだ鳴りやまない。

「彼女は落ち着くと、いきなり泣きだしたよ。
そして、僕たちに話してくれた。どうやら、内山浩太君というのは、彼女の弟さんらしいね。何でも、数年前に彼女の両親が離婚して、それぞれ片親ずつに引き取られていったらしい。それで、名字が違っていたんだね。

学校のみんなには内緒だったらしいけれど、二人はとても仲のよい姉弟だったんだね。いじめた連中はもちろんのこと、弟を見殺しにしたクラスメート全員が憎らしかったらしい。
君には災難だったけれど、彼女の気持ちがわからないでもないよ」
僕は、ぼんやりと話を聞いていた。

そう言われると、確かに僕にも責任があるのかもしれない。
「それで、岩下さんは?」
「ああ、彼女は、突然ふらふらと出ていってしまったよ。そりゃあ、この場にはいづらいものな」

ほかの一人が、あとを続けた。
「でも、彼女の話じゃないけれど、本当にこの学校には悪霊がいるのかもしれないな。だって、君を襲おうとしたときの彼女の顔、ありゃあ間違いなく悪霊が取りついた顔だったよ」

みんなは、その言葉に頷きあった。
僕も、そう思う。
確かにあの顔は、人間の顔とは思えなかった。

みんなが押し黙る中、唐突に一人が呟いた。
「どうする? こんなことになってしまったけれど、七不思議を続けるかい?」
1.続ける
2.続けない