学校であった怖い話
>一話目(岩下明美)
>C6

「悪気はなかったんだ!
まさか、こんなことになるとは思わなくて……!」
僕は、思わず叫んでいた。
もちろん僕はいじめグループのリーダーだったわけではない。
僕だって、どちらかというと気が弱い方だ。
ああ、だけど……。
彼女は、知っているのだろうか。

「おまえが浩太を殺したんだ!」
彼女が右手を振りかざした。
殴られる!
僕が思わず目をつぶろうとした時……。
キチ……キチ……。
彼女の手に握られたカッターが、真新しい刃をのぞかせた。
ああ、彼女は、知っているのだろうか……。

僕はクラスでもおとなしい方だ。
大勢の友達とワイワイするより、休み時間などは本などを読んでゆっくりするほうだ。
クラスの中を眺めたり、誰かがふざけているのを見たり……。
そう、僕は確かに、内山君がいじめられていた所を何度も目撃していた。

そんな時内山君と目があうと、冷や汗が出るような気持ちがしたものだった。
もし僕が彼の立場だったら……。
そんなことを幾度となく考えた。
内山君は、そんな僕に親近感を覚えたのだろうか。
ある日僕は、彼からいじめの相談を受けた。

その時僕は、僕なりにいろいろ考え、いじめグループにこういう手紙を書いて出した。
「内山君が、ゆすられていることを先生に言うといっていました。それでだめなら、警察に行くそうです……」

こう書けば、彼らはいじめをやめると思ったのだ。
ところが、彼らはこれを見て激怒し、内山君をもっとひどくいじめるようになった……。

彼女は……知っているのだろうか。
そして、僕がいじめグループの影のリーダーだったから、あんなことを書いて内山君をいじめるように仕向けたんだと、誤解しているのだろうか。
確かに僕は、ひどいことをした。

内山君が、更にいじめられる原因をつくったのだから……。
確かに、僕がいじめたのと同じことだったのかもしれない。
だけど……!

「お前だ! お前が、浩太を殺したんだ!」
殺される!
彼女は、手にしたカッターを大きく振り上げた。
そして……。

僕は、そのまま意識が遠のいていった。
「大丈夫か? しっかりしろよ」
どれほどの時間が流れただろう。
僕は、ゆっくりと目を開けた。

僕の視界に、心配そうに覗き込む五人の顔が映し出された。
どうやら、助かったようだ。
「僕は……? 岩下さんは……?」
岩下さんの顔が見えない。
僕は、まだぐらつく頭をゆっくりと起こし、辺りを見回した。

「彼女は僕たちで取り押さえたよ。ずいぶんと興奮していた。止めるのがもう少し遅かったら、君は間違いなくカッターの餌食になっていただろうね」
次第に、生きているという実感が全身に伝わってきた。
心臓の鼓動はまだ鳴りやまない。

「彼女は落ち着くと、いきなり泣きだしたよ。
そして、僕たちに話してくれた。どうやら、内山浩太君というのは、彼女の弟さんらしいね。何でも、数年前に彼女の両親が離婚して、それぞれ片親ずつに引き取られていったらしい。それで、名字が違っていたんだね。

学校のみんなには内緒だったらしいけれど、二人はとても仲のよい姉弟だったんだね。いじめた連中はもちろんのこと、弟を見殺しにしたクラスメート全員が憎らしかったらしい。
君には災難だったけれど、彼女の気持ちがわからないでもないよ」
僕は、ぼんやりと話を聞いていた。

そう言われると、確かに僕にも責任があるのかもしれない。
「それで、岩下さんは?」
「ああ、彼女は、突然ふらふらと出ていってしまったよ。そりゃあ、この場にはいづらいものな」

ほかの一人が、あとを続けた。
「でも、彼女の話じゃないけれど、本当にこの学校には悪霊がいるのかもしれないな。だって、君を襲おうとしたときの彼女の顔、ありゃあ間違いなく悪霊が取りついた顔だったよ」

みんなは、その言葉に頷きあった。
僕も、そう思う。
確かにあの顔は、人間の顔とは思えなかった。

みんなが押し黙る中、唐突に一人が呟いた。
「どうする? こんなことになってしまったけれど、七不思議を続けるかい?」
1.続ける
2.続けない