学校であった怖い話
>一話目(福沢玲子)
>M2

早苗ちゃん、すごく具合が悪そうだったから先生を呼びに行くことにしたの。
でも、いないんだよね。
トイレかなと思ったんだけど、いないの。
それでどこを探せばいいか、わかんなくなっちゃった。

一応、近くの廊下をうろうろしてみたんだけどね。
こうしててもしょうがないかなって思って。
だから、もう一度保健室に行って、先生を待つことにしたの。
戻ってみたら、早苗ちゃんはまだがたがたと震えていたわ。
これは放っておけないって思って、近寄ったの。

私が近寄ると、それに反応するように、震えは激しくなったわ。
ベッドが、ずずっ、ずずって動くのよ。
それほど、激しく震えてたの。
私、もう心配になっちゃって、毛布に手をかけたの。

「早苗ちゃん、大丈夫?」
返事がないのよ。
聞こえなかったのかなって思って、今度はもう少し大きな声で、もう一度尋ねたの。
「ねえ、早苗ちゃん、大丈夫?」
それでも、返事はないのよ。

私、もうどうしていいかわからなくって、早苗ちゃんの肩を大きく揺すったの。
「早苗ちゃん! 早苗ちゃん!」
私、叫んじゃった。
すると、毛布の中からボサボサの頭が出てきたわ。

顔が醜く膨れちゃってて、紫色に変色した唇がベロンて、めくれてるの。
ふた目と見れない
顔になってたのよ。
「うるさいなあ。僕は、気分が悪いんだよ。
そっとしといてくれる?」
……違う人だったのよね。

私、てっきり早苗ちゃんが寝ているものと思ったから、びっくりしちゃった。
顔から火が出るほど恥ずかしかった。

そのあとすぐ、保健の先生が戻ってきたわ。
「どうしたの?」
「あ、あの……突き指しちゃって」
先生が手当してくれてる間中、落ち着かなかった。

隣のベッドからは、
「まったく、もう。熱があるってのに」
とか、
ふて腐れた声が漏れてくるし。
そんなに熱があるんだったら、家に帰ればいいのよ。

私、あんまり保健室に行くことってないけど、保険の岩崎先生って優しくて、いい先生よね。
男子が、わざわざ仮病を使って保健室に行くのがわかる気がしたもの。

「はい、もう大丈夫よ」
手当をしてもらってから、私、思い切って聞いてみたの。
「あのう、元木さん来なかったでしょうか?」

「元木さん?」
岩崎先生、不思議そうな顔をしていたわ。
そうよね、受け持ちの先生でもないんだから、名前言ったってわかるわけないわよね。
「あのう、さっき、気分が悪いって女の子が来ませんでしたか? 一年G組なんです」

先生、困った顔していたわ。
「……さあ。私、ちょっと用事で、はずしていたから。その間に来たのかもしれないわね」
「誰も来てないよ」

ベッドに寝ているふくれっつらの男が、ぶっきらぼうに答えたの。
あいつになんか、
聞いてないのにね。
きっと、あいつも岩崎先生のファンなのよ。
だから、家に帰らないで保健室で寝てるのよ。
身の程しらずって、あいつのような奴のことをいうのね。

でも、私、不思議だったわ。
早苗ちゃん、保健室に行かないで、いったいどこに行ってしまったんだろう?
もし途中で倒れてたりなんかしたら、どうしよう。
なんせ、ちょっと血を見ただけでも泣き出しちゃう子だもの。
私、早苗ちゃんを捜したわ。

でも、早苗ちゃんは、すぐに見つかったの。
教室の自分の席に座ってぐったりしていたのよ。
保健室に行こうとして、先生がいないから教室に戻ってきたのか。
それとも、最初から保健室へ行く気なんかなくて、教室で休むつもりだったのか。

どうしてかわからないけれど、
早苗ちゃんは自分の席に座っていたの。
両手をだらんと垂らし、椅子の背もたれに身を預けて、頭を後ろにぐったり垂らしていたわ。
寝ているというよりも、気を失っている感じだったのよ。

ううん、何だか死んでいるみたいにも見えた。
白目を剥いてるみたいだったし。
私、一瞬どうしていいかわからなくて立ちすくんじゃった。
ただ茫然と、
早苗ちゃんを見てたの。

そしたら、急に彼女の身体が、がくんと跳ねたのよ。
まるで操り人形のようだったんだから。
大きく跳ねたかと思うと、今度は背筋をぴんと伸ばしたの。

そして、頭をゆっくりと弧を描くようにグルグル回し始めたのよ。
私、声を出そうにも、喉の奥に何かを押し込まれたようで声にならないの。
身体も、金縛りにあったみたいに動けなかった。
目を背けることもできなかったの。
私、びっくりしたわ。

今度は、背筋を立てたまま蝋人形のように動かない早苗ちゃんの口から、白い煙のようなものが出てきたんだもん。
ぽかんとあけた半開きの口から、もやもやっとしたものが、どんどん吐き出されるのよ。

煙にしては何だか堅い気がして、妙にまとまっているのよね。
綿みたいな感じだったわ。
それが、もやもやっとした人の形になってくじゃない。
あれって、エクトプラズムっていうのよね。
私だって、それくらい知ってるんだから。

エクトプラズムって霊魂のことなんでしょ?
早苗ちゃんの口から出てきたんだから、あれは早苗ちゃんの霊魂なんだと、私は思ったの。

早苗ちゃんの顔とは少しも似てなかったけれど、きれいな女性だったわ。
髪の長い、きれいな女性。
煙の固まりなのにね、ちゃんと目鼻立ちがわかるのよ。
あれって目で見てるんじゃないの。
頭の中にある目で、感じている光景なの。

肉眼じゃなくて、心眼ってやつ。
だから、煙なのに、はっきり見えるのよね。
詳しいことわかんないけど、私はそう思うな。
でも、エクトプラズムは本物なの。
エクトプラズムは肉眼で見ているけれど、煙の中に見える顔は心眼で見てるってわけ。

難しい?
でね、そのエクトプラズムが私のことを見たのよ。
見た気がしたっていうほうが正解かな?

でも、その途端、私は身体の感覚を取り戻したわ。
息も楽になったし、声も出るようになった。
それで私、早苗ちゃんに声をかけていいものかどうか迷ったの。
だって、こんなときに声をかけて早苗ちゃんの身に何かあったら大変だし。

でも、このまま放っておいても早苗ちゃんが無事とは限らないし。
どうしよう?
1.声をかける
2.放っておく