学校であった怖い話
>一話目(福沢玲子)
>A3

「ひ、……ひゃなえひゃん!」
動転して私、早苗ちゃんの名前をちゃんと呼べなかった。
でも、早苗ちゃんの返事はなくって……。
ただ、口からエクトプラズムを吐くばかりなの。

そのエクトプラズムは、伸びたり縮んだりしながら、しばらくの間、辺りをさまよっていたわ。
早苗ちゃんの口から伸びる細い糸のような煙が、命綱のように思えた。

赤ちゃんのへその緒みたいに、あの細くて頼りない糸が、霊体を支えているのよね。
何かの拍子にちぎれたら、どうなっちゃうのかしら。
私は、変なことを心配してた。
ほんの数分の出来事だったんだけれど、私には何時間にも感じられたわ。

しばらくすると、早苗ちゃんの身体が、がくがくって震えたの。
そうしたら、今度はエクトプラズムが早苗ちゃんの口の中に、ぞぞぞって吸い込まれていったの。

一気にじゃないわよ。ゆっくりとゆっくりと、自分の帰る場所を確かめるようにして、入っていったわ。
最後には跡形も残さず、全部、早苗ちゃんの中に入っちゃったの。
それと同時だったわ。
また早苗ちゃんの身体が、がくって揺れて前に突っ伏したの。

早苗ちゃん、机にゴツンて頭をぶつけたわ。
痛そうだった。
そしたらよ。
うーーーんて、朝、眠いのを無理やり起こされたような声を出して、早苗ちゃんが伸びをしたの。
本当に眠っていたみたいで、はれぼったいまぶたをコシコシこすっていたわ。

そしたら突然、早苗ちゃんが、寝ぼけ眼をこっちに向けたの。
どうしよう?
私はとっさに判断したわ。
1.逃げる
2.駆け寄る