学校であった怖い話
>二話目(荒井昭二)
>M2

そうですか、ではこれから聞く話も平気ですね。
良かった良かった。
では、心置きなく話しましょう。
その、旧校舎なんですがね……。

使われなくなってから、もうかなりの年数が経っていますけど、使われなくなってからも、とりあえず見回りだけは行われていたんですよ。
確か、十年ほど前までは、していたと聞いています。
もちろん、今は行われていませんけどね。

やっぱり、見回りは必要ですよ。
夜中に泥棒が入らないとも限りませんし、部外者が勝手に寝泊まりするかもしれない。
もっとも、あそこに盗まれるようなものはないですけどね。
それが、何で見回りさえなくなってしまったのか。
……それには、わけがあるんですよ。
僕は、その話をしましょう。

昔、桜井という先生がいたんですけど、誰も知らないでしょうね。
……今は、いませんから。
とってもいい先生だったらしいですよ。
まじめで堅物だったけれど、何をするのも一生懸命だったそうです。

当時は、先生たちだって、旧校舎の夜の見回りなんて嫌がったそうです。
宿直になった先生は、何だかんだいって、旧校舎の見回りはしませんでした。
するとしても、そばに行って懐中電灯で辺りを照らすだけで終えてしまったそうです。

中まで見回ろうと思っても、あの腐り果てた外壁が明かりにぼんやりと映し出された時点で、逃げ帰ってしまったそうです。
だから、表面上は見回りが行われたことになっていましたが、実状は違ったんです。

実際、先生が逃げ出すくらいですから、あんなところに忍び込む奴なんて、いるはずはないだろう。
誰もがそう自分に言い聞かせて、行われない見回りを正当化していたんです。
それでも、たった一人だけ、旧校舎の見回りを行った先生がいるんです。

それが、桜井先生でした。
別に、桜井先生は、怖くなかったわけではありません。
どちらかといえば、人一倍怖がりの方だったかもしれません。
それでも、責任感も人一倍ありましたから。

ほかの先生たちのように、手を抜くということができませんでした。
まじめに、旧校舎の見回りを行う桜井先生を、陰で笑うものまでいるほどでした。
宿直の担当など、めったに回ってくるものではありませんでしたが、桜井先生は自分の番が近づくと、やはり気が重くなりました。

そしてまた、自分に宿直の順番が回ってきたのです。
その日は、九月だというのに真夏のように蒸し暑い日でした。
蒸し暑いと、理由もなく気持ちもいら立つものです。

全身から吹き出る汗がシャツに染み込み、じっとりと濡れたシャツがべったりと肌に密着する。
それが、無性にいら立ちを増幅させてしまう。
そんな日だったんです。
夜になっても、一向に気温が下がる気配はなく、その暑さは続きました。

涼しい風でも吹いてくれればまだ少しはいら立ちも治まるものの、熱い蒸気を巻き込んだ風が吹くばかりでした。
暑さは依然衰えぬまま、見回りの時間がやってきました。
見回りの順番は、いつも旧校舎が一番最後でした。

新校舎や体育館、プールなどを回り、最後に旧校舎に挑むのです。
その日も、蒸し暑いというだけで、何事もなく見回りは進んでいきました。
プールの点検もていねいに行い、残るは旧校舎のみとなりました。

なぜか急に、桜井先生は背筋に寒気を覚えました。
あまりに蒸し暑くて、逆に寒気を感じてしまったのかと、桜井先生は笑いました。
それでも、嫌な予感が消えません。

何か、悪い予感がする。
今日は旧校舎の見回りをやめたほうがいいのではないか?
どうしよう?
1.見回りをする
2.見回りをやめる
3.もう少ししてから行く