学校であった怖い話
>二話目(荒井昭二)
>K3

そうだ、いつも私はまじめに旧校舎の見回りをしているんだから、一回くらいは見回りをしなくてもばちは当たらないと思う。
他の先生は、みんなまじめになんかしていないんだから別に構わないはずだ。

と、思ってはみるのですが、根がまじめなだけに、なかなかふんぎりがつきません。
昔から、この性格でいつも損をしていることを思い出してしまいました。

要領が悪いというかなんというか、ほら、よくありますよね、あんまり勉強しないくせに、テストでいい点をとってしまう子と、人の三倍も勉強するのに、なぜかあんまりいい点数をとれない子っているじゃないですか。
ええ、桜井先生は後者です。
なんとなく想像つきませんか?

桜井先生は、見回りはやめようと思ったものの、やっぱり気持ちがすっきり晴れません。
性格なんでしょうね。
「このまま、私が見回りに行くのをやめてしまったら……」

もしそれで事件でも起こったら、すべては桜井先生の責任になってしまいます。
そう考えると、どうしても足は旧校舎へと向かってしまうのです。
旧校舎には、電気が通っていません。
ですから、どんなに怖くとも、足元を照らす懐中電灯の明かり一つだけが頼りなのです。
その日は、いつもより明かりが弱々しく感じられました。
電池が残り少ないのでしょうか。

その日に限って、桜井先生はさっさと見回りを終わらせてしまおうと急ぎました。
暑いのに、なぜか体の震えが止まらなかったのです。

いつもは教室の一つ一つに入って念入りに調べるのですが、その日は教室の入口から懐中電灯で中を照らすだけで、簡単に済ませました。
三階建ての旧校舎をあらかた見終えると、足早に宿直室に戻りました。

宿直室は、締め切っていたせいもあって、まるで蒸し風呂のようでした。
「……しまったな。窓でも開けておくんだった」
桜井先生は、今日あったテストの採点をしながら、ぼんやりと旧校舎のことを考えてしました。

何を怖がっていたんだろう。
いつもと同じで、何の変わりもなかった。
あんな旧校舎に忍び込むものなどいるわけはないのだ。
自分は、あくまで万が一に備えて見回りを行っているだけなのだ。

採点を終え、何気なく窓から外を覗いてみると……何だか暗闇に混じって、うっすらと明かりが見えたのです。
確か、あっちの方角は旧校舎……。

まさか、旧校舎のどこかで電気がついている?
桜井先生は、眉をしかめました。
そんなこと、あってはならないのです。
旧校舎に電気は通っていないんですから。
それなのに、旧校舎から明かりが漏れているとしたら、誰かが忍び込んだに違いありません。

誰かが、無断で忍び込んだ……。
桜井先生は、傍らに置いてあった懐中電灯に手を伸ばすと、急いで立ち上がりました。
しかし、部屋を出ようとサンダルを履いたところで、ふと思い止まったのです。

もし、泥棒だったら……。
いや、もし刑務所を脱走した凶悪犯が、あの旧校舎に逃げ込んだとしたら……。
そんな、あるわけもないようなことを心配してしまうのが、人間です。
そして、あるわけないようなことだからこそ、もしあった場合のことを心配してしまうものです。

桜井先生は悩みました。
一人で行って大丈夫だろうか?
このままじっとしている方がいいのではないだろうか?
1.旧校舎へ向かう
2.このままじっと様子を見る
3.誰かに電話する