学校であった怖い話
>三話目(岩下明美)
>N7

そう、よかった。
そうよね、絵の好きな人は優しい人だっていうから。
……それじゃあ、皆さんが席に着いたところで、話を続けましょうか。
あの絵を描いた人はね、あの肖像画の本人なの。
自画像というわけね。
昔、うちの学校にいた生徒よ。

もちろん、彼女は美術部だったわ。
名前を、清水智子っていったの。
清水さんはね、おとなしい人だったそうよ。
物静かで、いつもキャンバスに向かっては絵を描いていたの。

絵が好きで、将来は美大をめざしていた。
でも、その夢はかなわなかった。
あの絵を描いた直後に死んでしまったから。
……殺されたの。

誰が殺したかは、今でもわからないわ。
犯人は捕まってないのよ。
下校途中に、誰かに首を絞められて殺されたらしいわ。
通り魔かもしれないわね。
もしかしたら、計画的だったのかもしれないけれど……。

清水さんはね、あの絵を一生懸命に描いてたのよ。
都のコンクールが近かったから。
それに出展するために、遅くまで美術室に残って、あの絵を仕上げていたわ。
……そして、あの絵が完成する直前、悲劇が起きたの。

遅くまで学校に残って描いていたからかもしれないわね。
早く帰っていれば、悲劇は起きなかったかもしれない。
それでね、あの絵は未完成だったのよ。
うふふ……、そう、実際はあの絵は完成していなかった。

未完成のまま、彼女は殺されてしまったの。
……でも、あの絵は完成してるでしょ?
なぜだか、わかる?

彼女は死んでもね、あの絵を描き続けたの。
事件が起こったあと、描きかけだった彼女の絵は美術室に保管されたわ。
家族の人たちも、それがいいだろうって納得したの。
そして、描きかけのままの肖像画は、美術室でも、もっとも目立つ場所に掛けられたわ。

……それがね、それからしばらくしてだんだんと噂が広まり始めたの。
あの肖像画が、毎日少しずつ完成しているって。
そういわれて見てみると、確かに最初のころと絵が変わっているのよ。
きっと、誰もいない時に、誰かがこっそりとあの絵に手を加えているんだろうって話になったわ。

けれど、美術室に鍵をかけようが、必ずあの絵には手が加えられている。
それで、みんなは噂しあったの。
きっと、彼女の幽霊が出てきて、あの絵を描いているんだろうって。

そして、清水さんと仲のよかった美術部員の一人が、それを確かめようとしたわ。
それで、見てしまったの。
絵を見つめながら、じっとたたずむ清水さんの姿をね。
それで、あの絵は取り外されたわ。
そして、部室で眠る多くの作品の一つとなったの。

ところが……。
あの絵は、誰が持ち運んだわけでもないのに、いつの間にかひとりでに美術室に掛けられているの。
何度片付けても、いつの間にか絵は美術室に戻っているわ。
まるで、みんなに見てほしいかのように。

あまりに気味が悪いからって、学校側は家族の人に連絡して、家に持って帰ってもらうことにしたわ。
でもね、それでもやっぱり無理だった。
家に持ち帰られたあの絵は、いつの間にか美術室に戻ってきてしまうの。

よほど、あの美術室が好きだったのかもしれない。
それとも、ほかに理由があったのかも……。
ふふふ……。
あの絵を燃やそうという意見も出たわ。

でも、誰もが、たたられるのが怖くてできなかった。
ならば、いっそのこと供養してもらおうという案も出た。
それで結局、どうしたと思う?
1.燃やしてしまった
2.破いてしまった
3.供養した