学校であった怖い話
>三話目(福沢玲子)
>A3

へえー、男のくせにロマンチストね……。
でもいい趣味してるわね。
うふふ、実は私も桜が大好きなの。

前に、旅行に行ったとき有名な桜の老木を見たのよ。
季節は、四月中旬だったかな?
一人では、とうてい抱えきれないくらい大きな老いた幹から、垂れ下がるようにしなだれた枝が四方に広がって、その一つ一つに隙間なく桜の花が咲いていたわ。
桜のカーテンのようだったの。

私は、ただ呆然と花の下で上を見上げていたわ……。
その時、私は声を聞いたの。
それは、確かに桜の老木から聞こえたように思えたの。
私は、引き寄せられるように老木に近寄り耳を寄せると……。
何か、幹の中を水や養分が通っているようなそんな音に混じって、

「私は、もう疲れた。お願いだ、もう休ませてくれないか」
っていう声が聞こえたんだよ。
私はびっくりして、辺りを見渡したけど誰もいなかったの。

そして、老木の幹に目を落とすとそこには無数の栄養剤が打ち込まれていたんだよ。
確かに、その老木は普通の桜の寿命より、はるかに長く生きているわけよね。

だけど、延命するためにそこまですることに、桜は疲れてしまったんだと思うの。
人間でいえば、薬の投与や延命のための機械をつけなければ生きていけない状態と同じなんだよね。
そんな桜が、かわいそうだと思ったけれど、私には、なにも出来ないし……。

私の空耳だったっていうの?
いいえ、そんなことはないわ。
私、この耳ではっきりと聞いたんだから。
多分、あれは桜自身というよりも、それに宿っている精霊の声だったんじゃないかな?

私は、そんなことがあって以来、確信したことがあるの。
そう、花や木には精霊が宿ってるって……。
だから、なじったり、嫌な光景を見せたり、粗末に扱ったり、乱暴したりすると……植物だって怒るのよ。
まあ、あの桜の老木は大事にされていたからそんなことはないとは思うけどね。

それで、坂上君も見たことあるよね?
旧校舎の裏にある一本の大きな桜の木。
なぜか忘れ去られたように、寂しくぽつんとある一本の木。
あの桜って、樹齢千年を越えてるんだって。
だから、あんなに大きいのね。

それで実をいうとね、新校舎の裏にある第二運動場は、あそこにできるはずだったんだって。
けどね、あの桜の木があるから、だめだったのよ。
どうしてかわかる?
あの桜をね、切ったり掘り出そうとすると、事故が起きるんだって。
工事中に三人も死んだらしいよ。

木を切り倒そうとした一人は、鉄骨に押し潰されて圧死。
掘り出そうとした二人は、それぞれ原因不明の発熱で一週間苦しみながら生死の境をさ迷った末に死亡。
誰も、手を出すことができないんだよ。

他の場所に移すのも、だめなんだってさ。
お祓いをやろうが、何をしようが全然だめなんだって。
怖いでしょ。
1.怖い
2.怖くない